「愛してる」、その続きを君に
やっとの思いで、平屋の「佐々倉」と表札のかかった門の前にたどり着く。
横殴りの雨の中、家の門を開けた途端、いつもとは違う家の雰囲気に夏海は戸惑った。
「あれ…」
いつもは点いているはずの外灯がついていない。
それに玄関の電気もだ。
彼女は恐る恐る玄関の引き戸を開けた。
鍵はかかっていない。
カラカラカラ…と戸がレールの上を滑ってゆく。
家の中は真っ暗だった。
濡れた傘をとりあえずたたんで立てかけると、夏海は携帯画面の明かりを頼りに、玄関の電気をつけた。
明るくなったたたきには、武子の靴がきちんと揃えられている。
「ただいま、おばあちゃん」
いつもより大きな声で言うも、「おかえり」がない。
夏海は湿った靴下のまま、家にあがった。
「おばあちゃん?」
家中の電気を点けていく。
「おばあちゃーん?」
キッチンにもリビングにもその姿はなかった。
夏海は一番奥の武子の6畳間をのぞいた。
開けた襖の隙間から、廊下の明かりが差し込んで、ぼんやりと彼女の影が畳に伸びる。
部屋の真ん中には、一枚板から作られたという木目の美しい祖母ご自慢のちゃぶ台が置いてあり、今はその黒い影がどっしりと主のように居座っていた。
壁に手を這わせ、彼女は電気のスイッチを探った。
人差し指がそれをとらえる。
一瞬にして真っ白な光が辺りを包み、彼女は目を細めた。
次の瞬間、夏海は廊下にしりもちをついていた。
恐ろしさのあまり、歯がカチカチと鳴る。
その武子の部屋には、ちゃぶ台のほかにもうひとつ、大きな黒い陰が横たわっていたのだ。