「愛してる」、その続きを君に
「ナツ!!早く救急車呼べ!」
信太郎は、びしょ濡れで玄関に呆然とたたずむ夏海に怒鳴った。
「おい!!何ボサッとしてんだよ!!」
「おばあちゃ…やだ…どうしよ…」
「早くしろ!」
「おばあちゃん…」
彼は駆け寄ると、うろたえる彼女の頬を思わずひっぱたいた。
「早く電話しろ!1、1、9だ」
じん、と頬に走る痛みに彼女は我に返ったのか、震える指でボタンを押してゆく。
それを見届け、信太郎は夏海の父親の携帯番号を呼び出した。
冷たい光の中で、夏海と信太郎は無言のまま長椅子に腰掛けていた。
雨に濡れたふたりには、病院内の冷房は寒いくらいだ。
隣町の総合病院。
ここについてから寒さからか、恐怖からか、夏海は震えながら右手人差し指の爪をずっと噛んでいた。
カツン、カツン…と爪を弾く音が規則的に聞こえてくる。
「夏海!」
バタバタと作業着姿の克彦が血相を変えて、走ってきた。
「お父さん…」
信太郎の両親も後に続く。
緊張感が融けたのか、立ち上がった彼女の目にはみるみるうちに涙が浮かんだ。
「おばあちゃんは?」
「よくわかんないけど、CT撮ったりして、今処置中…」
消え入りそうな声で答えると、静かな廊下にはすすり泣く夏海の声が響き渡った。
そんな娘の肩を撫でながら、「信ちゃんも悪かったね、面倒なことにつき合わせて」と克彦が言うと、彼は「いや…」とだけ答えうつむいてしまった。
「あのう…佐々倉武子さまのご家族の方はいらっしゃいますか?」
そんな彼らの重苦しい雰囲気に気後れしたのか、若い看護師が遠慮がちに声をかけてきた。
「私です、私が息子です」と克彦が夏海を長椅子に座らせ、進み出た。
「担当医からの説明がありますので、どうぞこちらに」
「わかりました」
克彦が小さくなる娘に心配そうにちらりと視線を向けると、それを察したのか信太郎の父親が「なっちゃんは俺たちがみとくから」と言った。
「悪いな、お願いするよ」と軽く頭を下げ、克彦は看護師のあとを付いていく。