「愛してる」、その続きを君に
「そういえば俺も。なっちゃんは?」
雅樹が夏海を見る。
「私もお腹すいたな。信ちゃん、何か買ってきて」
「は?俺?」
「立ったついでよ。それに言い出しっぺだし」
夏海は紫色の小さな巾着から千円札を一枚取り出した。
「おごり?」
「んなわけないでしょ!おつり返してよね」
「なっちゃん、俺、後で払うか。立て替えといて」と雅樹。
軽く舌打ちすると信太郎は薄っぺらい紙幣をひったくった。
「ご注文はいかかいたしましょうか、お坊ちゃまとお嬢さま」
嫌味たっぷりに訊くと「なんでもいいよー」、「俺も」と返ってきた。
「…ったく」
ブツクサ言う彼のシルエットが境内の表側へと消えていったのを確認すると、夏海は言った。
「信ちゃんはいつまでも変わらないね。あんなことばっかり言って。でも本当は好きな天体を勉強したいんじゃないかなぁって思うんだけどね、私」
「そういや小学生の時から言ってたよなぁ。宇宙人に会いたいって」
「会ってどうするんだろ。実際に会ったら、腰抜かしちゃうんじゃない?」
「言えてるね」
見上げた空は、真っ黒な木の葉のシルエットに遮られながらも、星が静かに瞬いていた。
雅樹も黙ってその星空を見ている。