「愛してる」、その続きを君に


「なっちゃん、大丈夫?」


信太郎の母が隣に座って、夏海の肩を抱いた。


「やだ、濡れてるじゃない!風邪ひいちゃうわ」と慌ててバッグからハンドタオルを出すも、役に立たないと思ったのだろう、「一度家に帰って着替えを取ってくる」と言い出した。


「お姉ちゃんの…恵麻の置いていった服がまだあるから。信太郎、あんたの分も取ってくるね」と、車のキーを取り出す。


「信太郎、なっちゃんのそばにいてあげるんだよ」


そう念を押して、彼女は小走りで駐車場へと向かった。


「とりあえず、何かあったかいものでも飲もうか、な?」と今度は信太郎の父が自販機を探しにその場を後にした。


足音が遠ざかると、


「私のせいだ、早く私が帰ってればこんなことには…」と夏海が呟いた


「おまえのせいじゃないって。そんなこと言うなよ」


「だって…電話した時は元気そうだったんだよ!なのに…!」


しゃくりあげながら、夏海が信太郎の横顔を見つめるも、彼は苦しそうに「もう言うな」と繰り返し、首を横に振った。


するとそこに信太郎の両親と入れ替わるように、雅樹が姿を現した。


「なっちゃん!」


雅樹はすぐさま夏海の横に座ると、冷たい彼女の手をそっと包み込んだ。


「濡れてるじゃないか」


「うちのババァが今さっき着替えを取りに戻ったとこだから」と代わりに信太郎が答える。


雅樹の手のぬくもりを感じながら、夏海はうつむいたまま「おばあちゃん…」と絞り出すような声で武子を呼んだ。


「大丈夫だよ、しっかりして」


「でも、もしおばあちゃんに何かあったら…私どうしていいのか…」


「そんなこと言うもんじゃないよ。とにかくしっかり気をもって…」


その時、雅樹のズボンのポケットが低い音を立てて震え始めた。


「ごめん、たぶん母さんからだ」


そう言って、彼は慌てて通話エリアに向かう。

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