箱庭ラビリンス
次いで、あぁ、そうか。初めて彼の名を彼に向けて呼んだんだ。と納得した。あれは確かに彼に向けて発した助けを求める声だったんだ。
そう思えば自然と足は止まり、彼に置いていかれる。数歩離れてから私の異変に気付いた彼は立ち止まって振り返り、首を傾げた。
助けて、貰った。何度も頭で認識していた。けれどそのままだった。
髪の隙間から彼を捉え、息を吸い上げた。
「――……ありがとう。桐谷くん」
「っ――!?」
言うタイミングが悪かったのか困惑したような表情を浮かべて合わせていた瞳をゆらゆらと揺らす。それでも私は更に続けた。
「この間も、今も、いつも気遣ってくれて、助けてもらって……感謝しているんだ」
言うと彼は、困惑した表情が抜けていないまま小さく笑ってこう言った。
「俺がやりたくてやってるんだよ」
と。