箱庭ラビリンス
紙を隙間に通して、才能ある人に対して失礼だったかと思うも、思いの外返事はすぐに返ってきた。
『いいよ。聴いてもらえるだけで嬉しい』
何故か。何故か笑っている顔が浮かんだ。笑っている顔なんて知らないのに。
『君はピアノが好きなんだな』
『うん。今は』
『そうか』
含みのある言い方を不思議に思うも、聞かないで置くことにした。
安易に踏み込めるほど仲良くなんてない。
『一つ聞いてもいい?』
『なに?』
と、返事を返したところで躊躇しているかのように少し間が空いた。
『昨日、どうして泣いてたの?』
きっと、それを答えるにはまだ足りない。
『言えない』
今の私には一生言えない事。