箱庭ラビリンス
私は今までそうやってきて、そうやって生きてきて、誰かの気持ちを知ろうともしなかった。私は一人、小さく自分の世界で蹲っていただけだった。
母さんの気持ちだって、智くんの気持ちだって、ようやく知れた。知れた事で変われた気がする。彼の気持ちだって同じだ。
こんなの……
「する必要もない思いをするくらいなら「駄目だ……駄目。やっぱり駄目」」
うわ言のように駄目だ駄目だと呟いて、きっちり菜穂姉を見据えた。
逃げたと後悔していたじゃないか。それが答えだ。
「ごめん……私はそれでも逃げちゃ駄目なんだ」
「――……」
菜穂姉は、少し驚いたような表情を見せた後、柔らかく微笑んだ。
「――ちゃんと、答え出てるじゃない」
私の事までも全て把握済みと言わんばかり。操作されていたのかと疑ってしまった。彼女の得意分野なだけに、特にそう思う。