箱庭ラビリンス
音の止んだ空間に一瞬躊躇いはしたが、踏み出した。
足音を鳴らし、一歩一歩に力を入れ、彼から少し離れたピアノの傍で立ち止まった。
絡み合う視線と視線。私の言葉を待っているような瞳。
もとより、私は彼より先に先手を切るつもりだった。
「……この間の問い掛けに答える。……ナナギと名乗る子供に私は出会った事がある」
全ての順序をすっ飛ばして言えば彼は、目を伏せて俯いた。
待つ。彼が答えるまで待つ。いや、待たない。待てない。
「君はあの日……」
急かす心が結論を促す言葉となって吐き出された。
彼は静かな動作で顔を上げて言った。
「俺はあの日ナナギと名乗ったよ。――やっぱり君で間違い無かったんだ」
また笑う。今度は力なく。
私はそんな笑い方すらも出来ずに、ただただ話を続行するしか出来なかった。