箱庭ラビリンス
だから呼ぼう。彼の名を。
「桐谷くん。……音弥くん」
何度だって呼ぼう。
「音弥くん」
君が君だなんて言わない。私は言えるような人間じゃない。その代わりに名を呼ぶんだ。
「あの日、たった一言で救ってくれた未来ちゃんがずっと好きだった。でも、それ以上に……」
きっと過去にすがりついていた。
けど、それも終わりにしよう。もう気付いていた。
私はいつからかナナギくんを見ていなかった。あの日には帰れない。誰も居ない。七霧音弥も、ナナギくんに未来ちゃんとに呼ばれた少女も。
「俺は今ここに居る君を……――」
「私はそんな君が……――」
もう一度過去も関係なく最初からやり直そうか。君も私もちゃんと触れる距離にいるのだから。
【END】