箱庭ラビリンス
私だってわかってるよ。頭ではあの人が悪いんじゃないって。けど、この行き場のない感情をどうすればいいか分からないんだ。母親だろうと笑って接するなんて出来ないんだ。
「……」
頬に触れれば濡れていた。
あの人が帰ってから何時間も経っているだろうが時間を見る気にもなれず、電気をつける気にもなれず、ずっとベッドで小さく蹲っていた。
気力がなくとも欲求と言う衝動はどうしても避けられないもので、キューと小さくお腹が鳴った。
ちょうど食べるものを切らしていたと思うが、一応ながらキッチンと呼ばれる所へ足を進める。
扉を開けるとフワッと香る遠い昔の匂い。
元を辿ればお湯を沸かす機能しか持っていない鍋がコンロに設置されていた。
不審がりながら蓋を開ければ姿を現したのはお粥。
作る人なんてあの人しか居ない。
私は何の躊躇いもなくそれを棄てた。