箱庭ラビリンス


「それじゃあ」


返事を返さずフリフリと手だけで返す。


マンション前で彼と別れた後も、そのままポケッと棒立ちで立っていた。


暗い空間で風が髪をさらう。だが、そんな事はどうだってよかった。


ぐるぐると今日弾いてくれたピアノの曲を巡らせては思いに浸る。


それが今に置ける最大限の幸せ。


「ん、しょ……」


いつまでも立っている訳にはいかないのでさっき買った食べ物が入った袋をもう一度持ち直して、マンションの中へと入って行った。


そこのエレベーターを待っている間、薄らと私の姿がガラスに映る。気のせいかもしれないが、いつもよりもほんの僅か、表情が和らいで見えた。


見えない程小さく、何かが変わっていってる気がした。



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