箱庭ラビリンス


どんなに有名なピアニストも私の心を動かさない。今、この瞬間に引いている主だけが動かす。


なんて、ピアニストの演奏を聴いたことがない私が言ったら愚弄していると言われてしまうだろうか。


だが、それでもいいと思えるのはこの音が――……。


「……?」


ふと唐突に、本当に突然音が止んだ。演奏が止められたのだと気付くのに数秒は掛かり、まだいつもなら引くはずだと思って動けずに居た事でまた数秒要した。


合わせてほんの一瞬。


私の隣で扉が開くと共に声がした。


「中、入ってもいいよ。望月さん」


しまった。と思ったと同時になんで。と疑問が浮き上がった。


気付かれていない筈だった。


……そう思いたかっただけなのかもしれない。






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