箱庭ラビリンス


言われた通り、店の入り口の壁にもたれ掛かって菜穂姉を待っていた。


視線をキョロキョロさせながら、ザワザワと声が混じりあっているのを耳で感じていた。


「おねーちゃん。おねーちゃんも此処で待ってなさいって言われたの?」


不意に聴覚が捉えたのは、喧騒に混じって此方に向かう可愛らしい声。触覚が捉えたのは小さな温もり。


それを払いのけそうになったが、視覚が小さな女の子を捉えた。


「ぅ……ん……。そう、なんだ」


思わず払い除けそうになったのを堪える。二つ結びの小さな女の子は目一杯此方に顔を上げていた。


幼い子を無闇に払い除けてはいけない。幼い子のする事は無下にしてはいけない。


そう、菜穂姉に諭されていた。幼少期は大事だから小さな事であれ。と。




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