箱庭ラビリンス


変わりたいと思った事はある。だからこそ、当初誰にでも起こしていたパニック症状は何とか男以外には少なくなった。根気があれば変われるのだろうと思う。


なのに根気も、もう殆んど無いんだ。怖いだけが残ってフラッシュバックを起こして、そうする内に難しくも簡単な、人を避ける事を覚えた。


「望月さん。どうかした?」


もしかしたら、彼なら……彼なら……


返答もせずに、演奏を止めた手を見つめる。細い指、だけども大きな手。


あの手があの音を奏でている。


「聞こえてる?」


「あ、……何でもない。大丈夫」


「そう?」


首を傾げながら再び演奏を開始する。


人に触れたいと思う事はあの日から一度も無くなって居たことに気付いた。



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