箱庭ラビリンス


「今日、ずっと手ばかり見てるね」


帰り支度を始めた彼が唐突に放った言葉に、見られていたのかと驚きが浮かぶ。誤魔化すことは全く頭になく、カタカタと携帯で文字を打った。


『従姉妹が言ったんだ。温もりに触れろと』


「そうなんだ……――なら、触ってみる?」


「!?」


何を思ったか何故かイタズラめいた笑みを浮かべ、手を差し出す。が。


「冗談だよ」


すぐに手は引っ込められた。


その代わり、“でも”と言って付け足した。


「言ってくれれば、いつでも手でも何でも差し出すよ」と。


沸いたのは疑念。


どうして、そんな風に無償で優しくしてくれるのか。



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