箱庭ラビリンス
本当は気付かれているのではないかと内心で危惧していた。
だって彼は毎朝私と目を合わせていた。私と目を合わす人なんて彼以外いなかった。いるならば何かを言う人だけだ。
なら……ならもし彼が何かを言おうとしていたら?この事に何らかのきっかけで気付いていて言おうとしていたら?
目を合わすのではないだろうか。只の思い込みに過ぎないのだろうか。
とにかく、顔を合わせることが嫌で逃げたくなった。それほどまでにこの状況は最悪だ。
嫌悪と恥ずかしさ。そんな感情が胸に占めている。
今すぐ走り出そう。
「っ……」
なのに足が、動かない。
「あ、もしかして声、掛けない方がよかった?」
俯いたまま動けない。