箱庭ラビリンス
ドクリ。と脈を打ち始める。ただ触れるだけなのに酷く恐ろしく感じる。
実際、触れる事……いや行動する事が恐ろしいと認識しているから仕方ないのかも知れない。跳ね除けられたら。聞いてもらえなかったら。だが。でも。なのに。そうだとしても。
「はい。深呼吸」
「……え?」
「いいから深呼吸」
促されるままに深呼吸を繰り返せば、脳内を圧迫していた雑念が外に出ていく感覚がした。
抜けて、落ちて、消える。
「落ち着いた?」
さっきまでのが嘘のようで、微笑んでくれる彼に対して安心感すら抱いていた。
「君には、助けられて、ばかりだな……」
「そんな事ないよ」
――私は何も持っていないけど、何も出来ないかもしれないけど、少しずつ。少しずつでも返していこう。
貰ったありがとうの気持ちも、貰った温かい体温も。
「何か変だね」
「そう、だな。変だ」
何年振りかに変わろうと決め、自分から人に触れた瞬間だった。