箱庭ラビリンス
相変わらず記憶を掘り返せば嫌な汗しか出なく、綺麗な気持ち一つも浮かび上がらない。もっとも、あの日々に綺麗なものなどなかったが。
その気持ちを吐き出せれば。といつも思っていたのは他でもない私だった。
一呼吸置いてから、想いを言葉に乗せた。
「――簡単に言えば兄と呼んでいた人に会ったんだ。母の再婚相手の息子だから血の繋がりも何も無いんだが」
端的に、それでも明確に。
「小学校低学年辺りから、中学辺りまで、再婚相手との生活は続いた」
最初は戸惑いばかりだったが、慣れればどうって事もなく平凡な生活だった。暫くは。
「上手くいっていたんだ。けど、私が中学に上がった時、変わってしまった」
再婚は未来と言う名の無力な子供の始まりであり終わりだったのかもしれない。
「変えたのは兄で、彼は……彼は……っ!」
足先から蛇が這ってくるようなその感覚。打ち消そうと首を振り、再度口を開いた。
「兄は親には内緒と言って、動物を捕まえては私の目の前で傷付けて無惨に殺して……っよく覚えてるよ。血で穢れた手で私に触れた事も感覚も」
胃が圧縮されるような感覚に吐きそうになった。