箱庭ラビリンス


時計を見れば、既に深夜を指し示していた。はっと息を吐いたところに差し出されるマグカップ。中に入っているのは匂いからしてホットミルクだろう。


「ありがとう。でも、これ菜穂姉のマグカップ……」


「いいのよ。未来ちゃんの割っちゃったんでしょ?無くなってたし。それにコレが私のって訳でもないし、好きに使ってくれてもいいのよ」


「ん……」


短く返事をして一口口に運ぶ。温かい。


今日マグカップなんて買いにいかなければ良かった。なんて思うも、行ってしまった事もアイツに出会ってしまった事も変えられない事実だ。


事実に彼と菜穂姉を巻き込んでしまった事も同じ。後悔じゃない。自分の事ばかりで嫌になるだけ。だから……もう。


「菜穂姉。もう夜中だけど帰ってもいいよ。私は大丈夫だから」


そんな強がりを言ってみる。


もう私も寝るから。と、薬が入っている袋に手を伸ばしたけれど、自然な動作で菜穂姉がそれを阻止する。


「帰らないよー。だって、例の子の話まだ聞いてないもの。言っとくけど、喋るまで寝れると思わないでよね?」


おどけたように笑い、私の隣に座る。


菜穂姉はいつもそういう人だ。


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