光を背負う、僕ら。―第2楽章―



「麻木はピアノの練習、順調に進んでる?もうあの部屋で練習してないみたいだけど」




リフティングを続けながら伸一が何気なく聞いてきたことに、あたしの表情が固まる。



「……え?」




……どうしてそれを、知ってるの?



確かにあたしはもう、あの音楽室で練習をしていない。



でもそれは伸一があの部屋に来なくなったあとの話だし、もちろん直接教えた覚えもない。



それにあたしはそのことを、明日美達にはメールで伝えた。



次の日からは放課後に真藤君と勉強する約束をしていたし、まとめて報告したかったから。

だからきっと、たまたま聞いたなんてことはないはず。



まさか……。




「メモを置いていった数日後に、一度だけあの部屋に行ったんだ。けど部屋には鍵がかかってて、誰も居なかった」




驚いて固まっているあたしの疑問に答えるように、伸一はそう言った。



まさか……。

もう二度と、あそこには来ないと思ってたのに。




「そ、そうだったんだ。……佐藤君の言う通りだよ。お母さんに許してもらえたから、今はもう家で練習してるの」


「そっか、それで居なかったのか……」




「納得した」と言うような顔で、伸一はリフティングを続けている。



不規則に動くボールを、あたしは複雑な気持ちで見ていた。



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