光を背負う、僕ら。―第2楽章―
「思い切って声掛けちゃえば良いのに。話したいことがあるんでしょう?」
前触れもなくそう尋ねてくるところを見ると、小春ちゃんはどうやらあたしの決意を感じ取っているらしい。
教科書を机の端に追いやりながら首を横に振った。
「……無理だよ。あんなにも囲まれてるし」
「じゃあ今日は、もう声を掛けないってこと?」
「うん、たぶん……。放課後もきっと、タイミングを掴めない気がするしね」
「えー、もったいない!せっかくのチャンスなのに。話そうと思ったときに話さずに後回しにしたら、絶対もう話せなくなるよ?決意があるうちがチャンスなんだから、ここで思い切って行動しなくてどうするの?」
チャンス。
タイミングを掴めずに悩んでいるというのに、そうやって発想を変えて言えてしまう小春ちゃんはすごい。
やけに説得力があったけど、尻込みしているあたしはそれでもまだ「でも……」と口ごもる。
そんな様子に小春ちゃんは苦笑いをするけれど、優しい声で言った。
「向き合わないと、伝わらないこともあるんだよ?あたしがその良い例なんだから」
「……」
「あたしがこんなこと言うのはおせっかいかもしれないけど、やっぱり佐奈ちゃんにはあたしみたいな失敗はして欲しくないから……」
「……うん、ありがとう。小春ちゃんが言いたいことはよく分かるよ」
そう言ったところでチャイムが鳴った。
授業の始まりを告げる音に合わせて動く人の波に紛れて、小春ちゃんは立ち去って行く。
痛いところを突くなと思った。
そしてどこまでも優しい人だから、こっちが戸惑ってしまうよ。
自分の元カレとの仲を取り持つなんて、並大抵の気持ちがないと出来ない。
ましてや小春ちゃんの伸一への気持ちは、下手するとあたし以上だったのかもしれないのだから……。