光を背負う、僕ら。―第2楽章―
あたしと伸一の志望校は同じ市内にあるから特別離れ離れになるわけじゃない。
だけどこうやってすぐそばにいられるわけでもないし、学校で毎日顔を合わせられるささやかな幸せもなくなってしまうんだ。
それを考えると……寂しくないと言うのは嘘になる。
「……まぁ、卒業の前に受験があるけどな。だからまずはそれを頑張らねーと!」
あたしが卒業のときのことを考えて俯いていることに気付いたのか、声の調子を上げて伸一はそう言った。
右隣を見ると、伸一は首を傾けてあたしの様子を窺いながら、にっと笑ってくれた。
その笑顔は「大丈夫だよ」と語りかけてくれているみたい。
おまけに少し痛いぐらいの力で握られた手が、あたしの不安定な気持ちを繋ぎ止めてくれる。
だから単純なあたしは、それだけで簡単に不安や悩みの種を拭い去ることが出来るんだ。
「……うん。そうだね、まずは受験だもんね」
先のことを見据えるのは大事なことだけど、あまりにもそれに執着していてはダメだよね。
まだ先の別れよりも、ちゃんと目の前にあることから立ち向かっていかないと……。
「麻木の受験って今月だっけ?」
「うん、今月の最終土曜日。佐藤君は?」
「俺は来月の第2週目の土曜日。そうかー、麻木もうすぐなんだな」
甘酒を飲みながら、伸一は遠くを見ていた。
そしてふと何かを思い出したように、ダウンジャケットのポケットの中をまさぐり出した。
何事かと思って見つめていると中から小さな白い紙袋が出てきて、それはあたしに向かって差し出される。