光を背負う、僕ら。―第2楽章―
休憩を挟んでから、課題曲と自由曲の実技試験が行われた。
自分の番が回ってきて部屋に入ると、真ん中にグランドピアノがあって、その奥に何人かの先生が座っていた。
面接のときは二人の先生だったけど、今は五人の先生が長い机に沿って待ち構えている。
入室した時から感じる空気もピリピリとしていて、明らかにこの試験の重要さを感じた。
唾をごくりと飲み込んで喉から声を絞り出す。
「受験番号630番、麻木佐奈です。よろしくお願いします」
「はい、よろしくお願いします。ではさっそくですが、準備をして下さい」
「はい、お願いします」
五人の中で真ん中に座っていた男の先生に促されて、礼をしてから椅子に座って準備を整えた。
椅子の高さもピアノとの距離も微調整を終えて準備はばっちりだ。
だけど、膝の上に置いた手が震えている。
緊張を悟られないように手先を重ねて誤魔化した。
……ドクン、ドクン……。
心臓から指先まで、全身にこの音が伝わる。
だけど頭は冷静で、今までの練習のことを思い出しながら自分に言い聞かせた。
――大丈夫。
今までの練習通り、落ち着いて弾いたらミスもしないはず。
飽きるぐらい弾いたのだから。
それに伸一と一緒に願った未来があるのだから、きっと大丈夫だよ……。
伸一の笑顔を思い出すと、お守りが入っているポケットの辺りが温かくなったような気がした。