光を背負う、僕ら。―第2楽章―
「なんか……すげぇ懐かしいな。この部屋に入った回数は少ないはずなのに、ずっと前からここにいた感じがする」
「あたしもだよ。この部屋で過ごした時間はすごく長かった気がするもん。本当は短いのにね……」
鍵盤にそっと指を置いて力を込める。
ポーンと響く音は相変わらず外れていなくて安心した。
何も変わってない。
このピアノも、ここに閉じ込めてきた思い出も、ちゃんとあたしの心に反応してくれる。
それが嬉しくて、笑顔が溢れた。
「それにしても、先生がこの部屋を貸してくれて良かった。昨日そのことをメールで教えてもらったとき、なんか……嬉しかった」
伸一はそう言うと、かつての特等席になっていたピアノの傍の机に腰を預ける。
ピアノの前から見る伸一のその姿が以前のものと重なって、タイムスリップしたみたいだった。
「麻木とこうやってまたこの部屋に来るなんて、もう無理だと思ってたんだ」
「あたしもそうだよ。……でも、ちゃんとまたここに来ることが出来た。だからあたしも嬉しいよ」
伸一に向かってそう言えば、柔らかい笑みを向けられる。
その笑みは、あたしのピアノを好きだと言ってくれたときのものと似ている気がした。
あたしはまた、鍵盤に指先の力を込める。
静かな朝に響く音は伸びやかで、緊張している心を穏やかにしてくれるような気がした。