光を背負う、僕ら。―第2楽章―
「……あたし、ずっと前から、伸一が好きです」
――“伸一”。
本人の前でそう呼ぶのは、一体いつ以来になるだろう。
あどけない頃には素直に呼べた大好きな人の名前。
成長するにつれてそれは特別感が増して、いつしか伸一の大切な存在でなければ呼んじゃいけないような気がしてた。
……でも、今なら。
この名前を呼んでも良いかな?
そんな問いかけを含んだ眼差しを向ければ、伸一は目を細めて笑ってくれていた。
「――ありがとう。俺も……佐奈のことが好きだ」
――“佐奈”。
愛しさを帯びた声で呼ばれる自分の名前。
伸一の声で響くそれはまるで夢のようで、半信半疑な心は上手く反応出来ない。
でも……確かに言ったよね?
あたしの名前も、「好き」という一番聞きたかった言葉も。
目を見開いて固まっていると、伸一はフッと緩く笑って言った。
「長い間……待たせてごめんな?」
「そっ、そんなの全然、謝ることじゃ、ない……」
そう言っている途中で視界が滲む。
気が付くと、熱い滴が頬に流れていた。
何本も重なる涙の跡は、冷気に晒されてすぐに冷たくなる。
あれ、おかしいな。
今は全然、涙が出る気配なんてしなかったのに……。
本当に涙が溢れる瞬間って、こんなにも唐突だったんだね。