光を背負う、僕ら。―第2楽章―
「えっ?あぁ、俺がここにいる理由か?」
倒れた机の一つを戻そうとしていた伸一は、あたしの問いかけで一度手を止める。
そして微かに一度だけあたしの方に視線を向けたけれど、すぐに気まずそうに視線を戻して再び手を動かし始めた。
「聞こえて、きたから…」
「えっ?」
「……歌が、聞こえてきたんだ。ピアノ弾きながら歌う、麻木の歌声だった」
「うた…ごえ…?」
あたしの顔を遠慮がちに見つめる伸一の意図が、やっと理解出来た。
『ピアノ弾きながら歌う、麻木の歌声だった』
伸一の言葉が頭の中にこだまして、その瞬間やっと事の意味を理解した。
さっ、さっきの歌を聞かれた……!!
しかもよりによって、伸一に……!!
体内の血液が全部顔に集中したみたいに、顔が一気に赤く染まる。
恥ずかしさのあまり、伸一に背中を向けるように振り返った。
手で顔を覆えばまるで沸騰したてのヤカンみたいに熱くて、頭からは勢いよく湯気が出ているんじゃないかって思えた。