光を背負う、僕ら。―第2楽章―
大した意味もなく笑顔を向けられて、単純な心はあっという間にお祭り騒ぎになる。
だけど今は、そんなことより…。
「さっ、佐藤君どうしたの?そんなに急いで」
「えっ?決まってんじゃん。麻木の練習に遅れないように走って来たんだけど?」
「練習に遅れないようにって……」
……まさか、そんな。
伸一とあたしの大きな勘違いに気付き、頭がてんやわんやのパニックに陥る。
伸一が今まさに口を開こうとしているけれど、言おうとしていることは聞く前からなんとなく察しがついてしまった。
「邪魔しないからさ、今日も聞かせてくれよな?麻木のピアノ」
さっきと同じ笑顔でそう言った伸一に、ノーなんて到底言えそうになかった。
……きっと、最初から確認しておけば良かったんだ。
あたしは伸一にピアノを聞かせるのは“1日限定”なんだとすっかり思い込んでいた。
だけど伸一が今日もここに来たということは、あのときの約束が彼にとって“1日限定”ではないことを示している。
一体あの約束という名目の引き換え条件がどれだけの期間有効うなのかは分からないけれど。
……どうやら。
伸一君はしばらく秘密の放課後に居座るみたいだった。