太陽と雪
「んで?
奈留ちゃんが閉じ込められたって、何があったのよ」

私は、ロビーに向かう途中、麗眞にそう問いただしていた。

「ん?
奈留ちゃん……だっけ?

あの子、今は使われていない倉庫に閉じ込められてたの。

城竜二 美崎とすれ違ったときに教えてくれたからさ。

閉じ込められてるってことと、段ボールをよじ登ったところに小さい窓があるからってこと。

窓のさんの部分に髪が引っ掛かって、出ようにも出られなかった。

不本意だったけど可愛い編み込み部分を切ってもらったわけ」


「そうなの?
ありがとう、麗眞。

おかげで、はっきりしたわ」

皆には、祝賀会のホテルには必ず行くからと言って、ロビーのほうに走った。


「やっと見つけたわ。
……美崎」


「……彩」


「やっと、そう呼んでくれたわね」

その呼び名は、昔以来だ。

「このコンテスト自体も……。

あの第1R のフィラリアに感染した犬や狂犬病の犬……フリートークの犬を飼っていない女性も全て。

奈留ちゃんを閉じ込めたのも。

……美崎。

貴女の意志じゃないんでしょ?」


「……何で……分かったのよ」


「本気で驚いてたでしょ?

あの女の人が倒れたときも。

しかも、注射器まで出そうとしてたし。

それが本気で人を陥れようとしている人の態度とは思えなかった。

それに……麗眞から聞いた話、執事とも揉めていたみたいじゃない?

『いくらなんでもやりすぎだ』とかなんとか言ってね。

あと、教えたんでしょ?

私の弟の麗眞に。

奈留ちゃんがどこに閉じ込められてるか」


「さすが……
相変わらず鋭いわね、彩は」


「まあね?」


「ねぇ……美崎。

教えて?

何で……こうまでして自分の意志に反したことをするの?

聞かれちゃヤバイ話なら時間と場所を改めるから!」


「ごめんね?
彩……。

それだけは……まだ言えないの。

私は……あの人には逆らえないから。

でも、いつかは。

親友の貴女になら言える気がするわ」


美崎は、それだけを言って、私の横を早足ですり抜けると、会場を出ていった。


その横顔には、ほんの少し、昔の面影が残っていた。

「彩お嬢様。
そろそろ、お屋敷に戻りませんと……」


そうね。
有能な執事の言うとおりだわ。
祝賀会のための身支度しないとね。


「急ぐわよ?
矢吹」

「はい。彩お嬢様の仰せのままに」
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