太陽と雪
矢吹、南と続いて中に入る。

音は、地下だろうか。

そこから聞こえているようだ。


矢吹がすかさずペンライトタイプの懐中電灯を取り出す。


腕と脚をロープで幾重にも縛られている美崎がそこにいた。


「美崎!?
貴女、大丈夫なの?」


「彩……

言ったはずよ。

あのコンテストの日。

私に関わると、ろくなことないって」


「知ってるわ。美崎。

昔から、不正なことや詐欺まがいな行為が一番嫌いだ、ってこと。

だからでしょ?

自らそういうことをして、この城竜二財閥っていうふざけた組織から追放される。

すると、この世界から足を洗える。

違うかしら?」


「そうよ。
私、大嫌いだもの。

この財閥も、母親も」

やっと……聞けたわね。貴女の本音。


そのとき、いきなり場に似つかわしくない、乾いた銃声が響いた。


「な……何?」


「今のはね、空砲だよ。

だがね、美崎さまが今持っているであろう資料を差し出してくれないのなら、今度は本気で撃つ。

君も一緒にね?

宝月のお嬢さん」


くっ……


矢吹……何とかしなさいよ!


どうやら暗闇に目が慣れてきたみたいだ。

矢吹をふと見ると、顔をしかめて腕を押さえている。

「空砲とかいうのは嘘。

実は一発だけ実弾でしょう?

こすい手ね。

そういうところが大嫌いなのよ。
ねぇ、蒲原(かまはら)?」


その美崎の言葉に薄い笑みを浮かべたところを見ると、城竜二家の使用人ね?

この男……


「さぁ?
美崎さま。

資料を……早くお渡しください」


「バカね。
例の資料は、暗証番号を入れないと開かない金庫に入れたわ。

ここ、私の恩師が経営してる病院でね?

暗証番号は私、知らなかったわ。

4ケタの番号を入れるタイプだということは見抜けた。

残り数グラムの指紋検出粉を使って開けたの。

もう粉はないし、暗証番号は分からないわよ」


すると案の定、銃を構えてきた。


「心から、死をお望みのようですね?
美崎さま」


美崎は今、手も足も縛られているから逃げることすら出来ない。


「美崎っ……!」


体を張って、美崎を守った。


だけど、私の上に、私の身体を抱き寄せるようにして乗っている人物がいた。

「いけませんよ?

自ら命を捨てるなど。

あの時、私の兄が守った命は大切にしてほしいものです。

宝月 彩お嬢様。

私は、貴女さまには世界一幸せになってほしいのですから」



「え……」


聞こえるはずのない声が聞こえた。
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