太陽と雪
えっ……

懐かしい声。

夢で聞いた声。

彼しかいなかった。

「ちょっとっ!
何で藤原がここにいるのよ!

アンタ……辞めたんじゃないの?

宝月家の執事。

しかも何よ。

私には下の名前、教えてもくれなかったくせに」


「ええ。

ですが、見ていられなかったもので。

出過ぎた真似を。
失礼いたしました」


バカね……


会いたくなかったわよ……
こんな形で。

どうせなら、もっと、ロマンのある再会がしたかった。


「ちょっと……待ちなさいよ。
藤原っ……」



ヤバイわよ……


出血の量……

右腕と右足に一発ずつ、撃たれているみたいだ。


私と、私の下にいる美崎にも怪我一つないみたいだ。

私の上にいる藤原の出血量が大量のため、とばっちりで私の衣服も血まみれだが。


「ふふ。
君も……よく働いてくれたね……
藤原 拓未(ふじわら たくみ)くん。

だけど……残念だよ。

今度は、外さないよ。

私は元軍人。

先程のようにわざと外すのはストレスだったんだ。

君の弱点である肺を狙ってあげようか?」


え……?
肺が弱点って……どういうこと……?

頭が働かない。

藤原には持病はなかったはずだ。


そう思っている間にも、藤原に銃を向けていた。

このままだと、銃弾はまっすぐ、藤沢の肺に当たり、貫通する。

つまり、藤原は私の目の前で命を落とす。


銃の引き金に……力が籠るのが分かった。



「何をしているのかしら、蒲原くん。

当主の命令外のことをする執事は解雇するしかないわね」

聞いたことのない声がした。

恐る恐る後ろを振り返った、蒲原と呼ばれた男の股関節が思い切り蹴りあげられた。


同時に、男が床に崩れ落ちた。


え?

何!?

何が起きたの?

「似てた?
似てた?
城竜二家当主のモノマネ」


宙に舞った拳銃をバッチリキャッチした、麗眞がそこにいた。

……ホント、カッコつけるの、得意ね……


ってことは……


麻酔薬が注入される警棒を持った相沢さんが、崩れ落ちた男の首筋に警棒を当てていた。


「ありがとうございます……。
助かりました」

美崎が麗眞に小さくお礼を言った。

「どういたしまして」

美崎が相沢さんに目をやると、軽く会釈をした彼。

その後、相沢さんが目を丸くしていたのが気になった。

何か事情でもあるのだろう。



「この男は……署まで連行ということでよろしいのですね」



「ああ。
頼む」


男の身柄は警備員と麗眞が車に乗せた。
貝塚……と美崎が小さく声を上げる。


どうやら、警備員に扮した美崎の執事であるらしい。

「美崎さまに怪我がなくて、何よりでした」

そう言った相沢さんだが、貝塚と呼ばれた男を、冷たい瞳で見つめていた。

相沢さん、顔、怖いわね。
人殺しでもしそうな目だわ。


それから、高沢の乗ったドクターヘリが到着し、藤原は無事病院に運ばれた。



このことで精神的に強いショックを受けているだろう美崎も病院に搬送された。

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