太陽と雪
「良かった。
美崎に怪我がなくて。
ヒヤヒヤしたわ」


仰せの通りでございますね、彩お嬢様」


帰りは、リムジンで帰るようだ。


あら?

矢吹……手……怪我してる?

さっき撃たれた腕は止血したみたいで大丈夫だけど…

まさか……あのときの弾が左手も掠ったの……?


私をいつもの通り、エスコートしてくれたときにふとそう思った。


「矢吹。
ちょっと」


そう言って、たまたま鞄の中に入っていたリボンを使って、包帯代わりに巻いてあげた。


「いいのですよ……彩お嬢様。

そのようなことをなさらずとも…

お嬢様と執事の立場が逆でございます」


「何よ。
気に入らなかった?

私のせいだし?

……一応、ね」


私は”一応”というワードを強調しながらそれだけを言い放つ。

赤くなった顔を隠すように、窓の外へと勢いよく首を向けた。


バックミラー越しに、矢吹が微笑んだように見えた。



「ムチャするんじゃないわよ?
藤原の二の舞はゴメンよ」


「分かっておりますよ、彩お嬢様」



それにしても、麗眞ったら、いいとこだけとっていくんだから……

パパそっくり。

私にも見せ場、作りなさいよ!



もうっ。


まあ、少しだけ、カッコ良かったけれど。



ほんの少しだけふて寝をするつもりが、熟睡していたみたい。


気がついたら、ベッドで寝ていた。


「あら?
ここ……って?」


「フランスにございます、宝月の別荘でございます」

あ、そういえば、今、私、フランスにいるんだっけ……

フランスの別荘は、日本の宝月のお屋敷とは違って、シックっていうか、ゴシックな内装になっているのよね。

血で汚れた服を着替えたあと、ゆっくりお風呂に浸かって疲れを癒やした。

遅めの夕飯は海外にいるため、恋しくなった和食にしてもらった。

「今日は早めに寝るわ。

貴方も早く休んだほうがいいわ。

ゆっくり寝るのよ。

傷、開いたら大変だし」

「彩お嬢様はお優しい方で。

そんな方にお仕えできて執事冥利に尽きます。

それでは、おやすみなさいませ。
よい夢を」

普段寝付きは悪いのに、今日はすんなり眠ることができた。
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