太陽と雪
「私は大丈夫よ。
彩こそ……ごめんなさいね?
面倒掛けて」


「美崎……」


「あ、そうだ。
貴女、私の大学にこれ、忘れてたわよ?」


美崎が差し出してきたのは、いつか矢吹に貸そうと思っていた経営と株の本。


「貴女が持っていたの?
コレ……」



「そうよ?

貴女の家の株価が大暴落した翌日、私も、自分の家の系列会社の株価を大暴落させたわ。

この本……とても役に立ったわ。

私みたいに株価について無知な人でも株価操作出来たんですもの」



「ふふ。

美崎みたいな人にそう言ってもらうために私が書いたのだから、役立ててもらわなきゃ困るわ」


「あ、気をつけてね?
彩。

あの忌々しい義母のことよ、これだけで懲りるとは到底思わない」

「分かったわ、ありがとう」



病院を出ると、外には梓さんがいた。


「梓さん!?」


「あら、彩ちゃん」


「用事とやらはもう終わったのかしら?
それなら、私の別荘にお招きしてもいいのだけれど」


「あら、ちょうど良かったわ。
泊まるホテルを探していたところだったの」


「矢吹。
梓さんも乗せて差し上げて?」


「かしこまりました」



「あら?
執事さん、変わったのね。
前は確か、藤原 拓未とかいう名前じゃなかったかしら?」



「ごめんなさい……梓さん……
その話だけは、今はしたくないわ」


「あら、ごめんなさいね……
お気を悪くしたかしら?」



「いえ……」



ヤバ…藤原のこと思い出しただけで泣きそう。



「申し訳ございません、梓さま。

どうかいましばらく、藤原のことは口にしないよう、私からもお願いいたします」


「さあ、到着致しましたよ?

お嬢様方。

私は門の鍵を開けて来ますので、少々お待ちを」



矢吹が鍵を開けている間も、藤原のことが頭から離れてくれなかった。



「何で生きてるのよ……藤原……
バカっ……」


「ん?
何か言った?」



「いえ……」


梓さんには聞こえていたみたいだ。














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