太陽と雪
「あ、院長?

……私よ、宝月 彩。

葦田 雅志に伝えなさい。

三咲 奈留が入院してるって。

流産の場合、手術ね」



『……分かった』



いつまで経っても、あのバカベテラン獣医師、雅志からの返事がない。


「いつまでボーっとしてんのよ!
……バカね。

何のために私が近くの土地を買い取ってまで、この場所にジェット機をまわしたと思っているの?

他ならぬ、彼女の夫の葦田 雅志のために決まってるでしょ?

さっさと彼を乗せなさいな。

院長さん?」



観念したような、諦めたようなため息の後、しばらくして葦田 雅志の声が。


『ちゃんと乗りましたから、大丈夫ですよ。
お嬢様』


……ムカつく。


「気安くお嬢様なんて呼ぶんじゃないわよ!

そう呼んでいいのは、私の有能な執事だけよ。

貴方に言われてもキュンともしないし。

そう呼ばれて胸が高鳴るのは、矢吹にそう呼ばれたときだけよ」

葦田 雅志のため息が聞こえた気がした。

『オーナー、鈍すぎません?』

その物言いに何だかカチンと来たので、無言で電話を切ってから、矢吹と共に奈留ちゃんの家に向かった。
< 140 / 267 >

この作品をシェア

pagetop