太陽と雪
〈麗眞Side〉
「親父。
何?
俺も眠いの。
姉さんも置いてきちまったし」
親父に内線で呼び出しを受けたオレは、真っ先に親父の書斎に向かった。
「おお、早かったな。
さすが、俺の息子だ」
「褒めなくていいから、早く用件言えよ」
「麗眞。
今はいい。
彩もツラいだろうからな。
そばにいてやって構わない。
だが、落ち着いたら、必要以上に、彩の部屋に行ったりするな。
分かったな?」
「何で、親父が今更そんなこと言うの?
俺は、シスコンとかじゃなくて、弟として姉さんが心配なだけなの。
分かってるよね?」
「それは分かってる。
だがな、麗眞。
彩は自分の手で幸せを掴もうとしてるんだ。
おそらく、矢吹さんと一緒にはなるのだろう。
いつかは、な。
もちろん、藤原のことが落ち着いたら、にはなるだろうが。
お前も、誤解されないように、ちゃんと弟らしくすることだな。
お前には、愛しの椎菜ちゃんがいるだろう。
早くヨリを戻したらどうなんだ。
まだ好きなのだろう?」
「十分、弟らしいと思うけど?
今のままでも。
椎菜にちゃんと、男らしく紳士的に接することが出来てるのも、姉さんのおかげだし。
親父も、おふくろも、それだけは分かって?
あ、椎菜のことは、今でも大好きだ。
ヨリを戻して、高校のときくらいの溺愛恋人関係に戻りたい。
でもさ、どこで大学の教授やってるかがわからない以上、会えないんだよ。
……じゃ、オレは部屋戻るわ」
それだけを告げて、俺は親父の書斎を出た。
姉さんの部屋の外で、耳を澄ますと、矢吹さんの声が。
「どうぞ。
悲しいことがおありのときは、思いきり泣くのが一番ですから」
姉さんの泣き声が聞こえる。
時々嗚咽まで漏れている。
ここまで泣いた姉さんを、俺は見たことがない。
やっぱ、矢吹さんなんだな、姉さんの心の傷を癒せるのは。
まあ、昔はずっと、姉さんの後ろをくっついていってたからな。
姉さんにとっては、俺はただの弟なんだろ。
本当に昔の一時期だけだが、姉さんを女として……
恋愛対象として見ていた時期があった。
ふと思い出す。
確か、その日も、姉さんの執事(今となっては藤原さんの兄)が失踪したときだった。
姉さんは、今まで見たことないくらい大泣きしていた。
「姉さん……?
泣くなって」
「無理に決まってるでしょ?
貴方も私の弟なら、空気読んで……私のことなんて放っておいてよ」
「姉さんのことを放っておけないから、言ってるんだろうが」
そのとき、初めていつも強気な姉さんの泣き顔を見た。
化粧崩れも気にせず、俺の傍で嗚咽を漏らしながら泣く姉さんを、直視していられなかった。
だからこそ、だろうか。
手が勝手に、姉さんの身体を抱き寄せた。
「っ……」
大人の女性を感じさせるその曲線美。
俺の胸板に当たる2つの膨らみの感触。
つい、欲情しそうになる。
それを必死に抑えた。
今まで、姉としか見ていなかった。
だが、姉さんを大人の女性として意識し出したのは確かだ。
だけど。
叶わない恋を、わざわざする必要はない。
俺は、好きな人がちゃんといるのだ。
矢榛 椎菜という名前の、世界一大事にしたい女が。
今は、少し距離を置いてはいるが。
それでも、好きなことに変わりはない。
元の恋人関係に戻りたい気持ちは、ちゃんとある。
「私がお守りします。
一生をかけて。
執事という立場は関係なく、私は、1人の女性として彩お嬢様が好きなのです。
愛しております。
宝月 彩お嬢様」
ドアの向こうから聞こえた言葉を、宝月家の人間用に特注した盗音機に録音した。
これが、いつか2人の報われない恋を応援する助けになれば。
俺も、自分の手で、自分の好きな人と一緒になりたいと思わせてくれた。
そんな姉さんと矢吹さんの関係に感謝しながら俺は、自分の部屋に戻った。
「親父。
何?
俺も眠いの。
姉さんも置いてきちまったし」
親父に内線で呼び出しを受けたオレは、真っ先に親父の書斎に向かった。
「おお、早かったな。
さすが、俺の息子だ」
「褒めなくていいから、早く用件言えよ」
「麗眞。
今はいい。
彩もツラいだろうからな。
そばにいてやって構わない。
だが、落ち着いたら、必要以上に、彩の部屋に行ったりするな。
分かったな?」
「何で、親父が今更そんなこと言うの?
俺は、シスコンとかじゃなくて、弟として姉さんが心配なだけなの。
分かってるよね?」
「それは分かってる。
だがな、麗眞。
彩は自分の手で幸せを掴もうとしてるんだ。
おそらく、矢吹さんと一緒にはなるのだろう。
いつかは、な。
もちろん、藤原のことが落ち着いたら、にはなるだろうが。
お前も、誤解されないように、ちゃんと弟らしくすることだな。
お前には、愛しの椎菜ちゃんがいるだろう。
早くヨリを戻したらどうなんだ。
まだ好きなのだろう?」
「十分、弟らしいと思うけど?
今のままでも。
椎菜にちゃんと、男らしく紳士的に接することが出来てるのも、姉さんのおかげだし。
親父も、おふくろも、それだけは分かって?
あ、椎菜のことは、今でも大好きだ。
ヨリを戻して、高校のときくらいの溺愛恋人関係に戻りたい。
でもさ、どこで大学の教授やってるかがわからない以上、会えないんだよ。
……じゃ、オレは部屋戻るわ」
それだけを告げて、俺は親父の書斎を出た。
姉さんの部屋の外で、耳を澄ますと、矢吹さんの声が。
「どうぞ。
悲しいことがおありのときは、思いきり泣くのが一番ですから」
姉さんの泣き声が聞こえる。
時々嗚咽まで漏れている。
ここまで泣いた姉さんを、俺は見たことがない。
やっぱ、矢吹さんなんだな、姉さんの心の傷を癒せるのは。
まあ、昔はずっと、姉さんの後ろをくっついていってたからな。
姉さんにとっては、俺はただの弟なんだろ。
本当に昔の一時期だけだが、姉さんを女として……
恋愛対象として見ていた時期があった。
ふと思い出す。
確か、その日も、姉さんの執事(今となっては藤原さんの兄)が失踪したときだった。
姉さんは、今まで見たことないくらい大泣きしていた。
「姉さん……?
泣くなって」
「無理に決まってるでしょ?
貴方も私の弟なら、空気読んで……私のことなんて放っておいてよ」
「姉さんのことを放っておけないから、言ってるんだろうが」
そのとき、初めていつも強気な姉さんの泣き顔を見た。
化粧崩れも気にせず、俺の傍で嗚咽を漏らしながら泣く姉さんを、直視していられなかった。
だからこそ、だろうか。
手が勝手に、姉さんの身体を抱き寄せた。
「っ……」
大人の女性を感じさせるその曲線美。
俺の胸板に当たる2つの膨らみの感触。
つい、欲情しそうになる。
それを必死に抑えた。
今まで、姉としか見ていなかった。
だが、姉さんを大人の女性として意識し出したのは確かだ。
だけど。
叶わない恋を、わざわざする必要はない。
俺は、好きな人がちゃんといるのだ。
矢榛 椎菜という名前の、世界一大事にしたい女が。
今は、少し距離を置いてはいるが。
それでも、好きなことに変わりはない。
元の恋人関係に戻りたい気持ちは、ちゃんとある。
「私がお守りします。
一生をかけて。
執事という立場は関係なく、私は、1人の女性として彩お嬢様が好きなのです。
愛しております。
宝月 彩お嬢様」
ドアの向こうから聞こえた言葉を、宝月家の人間用に特注した盗音機に録音した。
これが、いつか2人の報われない恋を応援する助けになれば。
俺も、自分の手で、自分の好きな人と一緒になりたいと思わせてくれた。
そんな姉さんと矢吹さんの関係に感謝しながら俺は、自分の部屋に戻った。