太陽と雪
再会
久しぶりに学生の気分に戻って学食でも食べようと、食堂に向かった。
すると。
「やめて……!
いくら非常勤とはいえ教授だからって、貴方の頼みは聞かないって言ったはずよ!」
金髪の男に言い寄られている女性がいた。
聞き覚えのあるその声に、身体が石のように固まった。
ドレミでいうとラの音程の声。
冬の澄んだ空気みたいな、透明感のある声。
肌が透ける素材で、幾重にも連なったフリルと襟の黒が目を引く白いブラウスに、膝が隠れる丈の薄いイエローのスカート。
耳からはビジューが集まってボールのようになったものが下がっている。
鎖骨を超える長さの茶色の髪の毛は後頭部に向けて編み込みがされている。
矢榛 椎菜。
高校生の頃は恋人だった。
その頃、付き合い自体は順調そのものだった。
周りからも、よく早く結婚しろだのと持て囃されたものだ。
しかし、高校までは近くにいてすぐ会える距離だったから良かった。
お互い大学生になって離れ離れになった途端に、俺も不安でいっぱいになった。
遠距離恋愛を続けられる自信がなかったのだ。
このままでは彼女を一生幸せに出来ないという気持ち。
宝月家の次期当主として立派になるまでは、彼女に会うべきではないという責任感。
その気持ちの板挟みに、耐えられなくて、一度距離を置いてしまっていた。
彼女もこのままではいけないという気持ちがあったのだろうか。
距離を置きたいと言い出したのは彼女だ。
その当時の泣きそうな顔と、たまたま体調でも悪かったのだろうか、時折見せた青い顔。
今でも脳裏に焼き付いている。
せめて最後に感触を忘れずにいたいと、半ば強引に抱いたことを今でも鮮明に思い出せる。
離れていても俺は椎菜のことを忘れられるはずはなかった。
この間、テーマパークをホテルごと貸切り、宝月家でバカンスを楽しんだ。
その際に、あろうことが会うはずがなかったホテルの廊下という場所で再会した。
きっと、城竜二 美崎が招待したのだろう。
まだ椎菜とはヨリを戻せてはいない。
俺から告白するタイミングを計っている最中だ。
しかし、はらわたが煮えくり返る思いだ。
自分の大事な女が、どこぞの馬の骨かもわからない男に触れられているというのは。
「あのさ、何してるの?
その子から離れたほうが、身のためだと思うよ」
親父ゆずりのアイドルスマイルを浮かべて、椎菜に言い寄っている男に近寄る。
小声ながら、椎菜の、麗眞……さん!と言う声を聞くことが出来た。
「誰だよお前……
教授にしては、見ない顔だな」
「だろうな。
今日付けで非常勤講師になったんだから。
それより、邪魔なその手を離せ」
俺はそれだけを金髪の男の耳元で告げた。
笑えるくらい上手い具合に手を掴まれているが、むしろ好都合だ。
薄い笑みを浮かべて、相手の手首を右手で抑えるように握る。
「痛たたっ……!
あたっ……!」
俺の身体が回転すると同時に、男の呻き声が聞こえた。
「くそっ……!
覚えてろよ?」
男はそう言って、手首を抑えながら俺と椎菜を交互に見て、去って行った。
「ありがと……麗眞……」
「別に?
刑事だし、これくらいは朝飯前ってやつだ」
「ったく、椎菜も気を付けろよ?
相変わらず可愛いんだから。
そんなふうな、肌が透ける素材のブラウス着ているせいもあるんだぞ。
ハッキリ言って襲ってくださいって宣言してるようなものだからな、それ。
特に椎菜は、出るとこ出たいいスタイルなんだからさ」
そう言って、椎菜の傍から立ち去ろうとしたその時。
背中に、温かみと重みを、同時に感じた。
振り向かなくても、椎菜が俺の背中に抱きついていることは容易に分かった。
何してんだよ……
「行っちゃ……嫌……
また麗眞に会えないの、もう嫌なの……」
今、そんな可愛いこと言うなって……
理性が保たない。
すると。
「やめて……!
いくら非常勤とはいえ教授だからって、貴方の頼みは聞かないって言ったはずよ!」
金髪の男に言い寄られている女性がいた。
聞き覚えのあるその声に、身体が石のように固まった。
ドレミでいうとラの音程の声。
冬の澄んだ空気みたいな、透明感のある声。
肌が透ける素材で、幾重にも連なったフリルと襟の黒が目を引く白いブラウスに、膝が隠れる丈の薄いイエローのスカート。
耳からはビジューが集まってボールのようになったものが下がっている。
鎖骨を超える長さの茶色の髪の毛は後頭部に向けて編み込みがされている。
矢榛 椎菜。
高校生の頃は恋人だった。
その頃、付き合い自体は順調そのものだった。
周りからも、よく早く結婚しろだのと持て囃されたものだ。
しかし、高校までは近くにいてすぐ会える距離だったから良かった。
お互い大学生になって離れ離れになった途端に、俺も不安でいっぱいになった。
遠距離恋愛を続けられる自信がなかったのだ。
このままでは彼女を一生幸せに出来ないという気持ち。
宝月家の次期当主として立派になるまでは、彼女に会うべきではないという責任感。
その気持ちの板挟みに、耐えられなくて、一度距離を置いてしまっていた。
彼女もこのままではいけないという気持ちがあったのだろうか。
距離を置きたいと言い出したのは彼女だ。
その当時の泣きそうな顔と、たまたま体調でも悪かったのだろうか、時折見せた青い顔。
今でも脳裏に焼き付いている。
せめて最後に感触を忘れずにいたいと、半ば強引に抱いたことを今でも鮮明に思い出せる。
離れていても俺は椎菜のことを忘れられるはずはなかった。
この間、テーマパークをホテルごと貸切り、宝月家でバカンスを楽しんだ。
その際に、あろうことが会うはずがなかったホテルの廊下という場所で再会した。
きっと、城竜二 美崎が招待したのだろう。
まだ椎菜とはヨリを戻せてはいない。
俺から告白するタイミングを計っている最中だ。
しかし、はらわたが煮えくり返る思いだ。
自分の大事な女が、どこぞの馬の骨かもわからない男に触れられているというのは。
「あのさ、何してるの?
その子から離れたほうが、身のためだと思うよ」
親父ゆずりのアイドルスマイルを浮かべて、椎菜に言い寄っている男に近寄る。
小声ながら、椎菜の、麗眞……さん!と言う声を聞くことが出来た。
「誰だよお前……
教授にしては、見ない顔だな」
「だろうな。
今日付けで非常勤講師になったんだから。
それより、邪魔なその手を離せ」
俺はそれだけを金髪の男の耳元で告げた。
笑えるくらい上手い具合に手を掴まれているが、むしろ好都合だ。
薄い笑みを浮かべて、相手の手首を右手で抑えるように握る。
「痛たたっ……!
あたっ……!」
俺の身体が回転すると同時に、男の呻き声が聞こえた。
「くそっ……!
覚えてろよ?」
男はそう言って、手首を抑えながら俺と椎菜を交互に見て、去って行った。
「ありがと……麗眞……」
「別に?
刑事だし、これくらいは朝飯前ってやつだ」
「ったく、椎菜も気を付けろよ?
相変わらず可愛いんだから。
そんなふうな、肌が透ける素材のブラウス着ているせいもあるんだぞ。
ハッキリ言って襲ってくださいって宣言してるようなものだからな、それ。
特に椎菜は、出るとこ出たいいスタイルなんだからさ」
そう言って、椎菜の傍から立ち去ろうとしたその時。
背中に、温かみと重みを、同時に感じた。
振り向かなくても、椎菜が俺の背中に抱きついていることは容易に分かった。
何してんだよ……
「行っちゃ……嫌……
また麗眞に会えないの、もう嫌なの……」
今、そんな可愛いこと言うなって……
理性が保たない。