太陽と雪
椎菜の異変に気がついた。


いつも椎菜の肌は白い。

パウダースノーみたいな白さだ。

その時点での椎菜の顔色は、なんだか白いというより、蒼白かった。

誰が見ても、異常だ。


ついでに華奢な手首に指を当てて脈も測ってみると、早い割には弱かった。

食べ過ぎで気持ち悪い、という線は消えた。

それだけなら、脈に異常はないはずだ。

そういえば、行きのリムジンの中で、相沢が言っていた。


『早いもので本日は9月の中旬でございますが、8月上旬並みに暑いそうでございます。

最近は涼しい日が続きました。

くれぐれも、季節外れの熱中症にはお気を付けくださいませ』


……すぐに思い当った。

熱中症か……?



それからの行動は、早かった。


食べ終えたかつ丼の器はすでに返却棚に戻してあった。

ハヤシライスの分は、知るか。

ハヤシライスの器なんぞより、目の前の彼女が最優先だ。

彼女を抱えて高沢に連絡する。


「高沢か。

今どこにいる?

なるべく早く来い。

……椎菜が熱中症の初期症状を訴えている」


「麗眞……?

大丈夫……だから。

私なんかに構わないで?」


電話をしている間にも、体調が悪いからなのか潤んだ目の椎菜がそんなことを言ってくる。


……大丈夫なわけ、ないだろうが。

椎菜の「大丈夫」は、「大丈夫ではない」というサインだ。

そのことを、俺は知っている。

伊達に高校時代、彼女を溺愛してはいない。


『急いで参りますので、麗眞さまは、椎菜さまに水分及び塩分の補給を』


「分かった」



今、椎菜を死なせるわけにはいかない。


言いたいこと、いっぱいあるしな。

「今でも好きだ」と言いたいし、何なら何も身に纏っていない華奢な身体を抱きたい。

ついさっきボーッと高校時代の出来事を回想していた俺を心配していたのは、どこの誰だよ……

心配する側がぶっ倒れてどうするんだよ。


無茶をして自分の身体に鞭を打つところ、昔から変わってないな、椎菜。



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