太陽と雪
ふう。

とりあえず、講演の時間は30分くらいだから終わったらすぐ戻ることにしよう。

椎菜が心配だ。

優秀な専属医師の高沢のことだ。

きちんと処置は施しているはずだ。

そんなことを思いながら、お手洗いを済ませた俺は、講演を行う体育館へ足を踏み入れた。


するとすぐに、在学中にお世話になった教授と目が合った。


「何だかすまないね。

無理を言って。

君も忙しいのに」


「お気になさらないで下さい。
仕事も早く終わって、暇だったんです」


「そうか。
それは良かった」


「あ、君の代わりにやるはずだった刑事さんから原稿を受け取っているから、この通りやってくれれば大丈夫だから」


「ありがとうございます」


いろいろなことを言った。

自転車に乗るならちゃんと学校で安全講習を受けろ。

バイトだからって高校生をクラブやらキャバクラやらに勧誘するだけで逮捕されるから気を付けろ、とか。

帰りが遅くなったときは知り合いに迎えに来てもらうとか、一人暮らしのやつは交通費が高くつくけどタクシーを使えとか。

どうしても一人で帰るときは家に入る前に後ろを振り返ることを徹底しろ、とか。


そんなふうなありきたりな注意事項を語って、オレの出番は終わった。

出番が終わると、教授に頭を下げる。

講演が行われた体育館を出てからは、ひたすら走った。

大学の門まで着くと、そこには相沢の車が停まっていた。

「椎菜は?」


「高沢が病院へと搬送しました。

参りましょう。

麗眞坊ちゃま。

飛ばします、手すりにおつかまり下さい」

俺の気持ちを汲んで、急いでくれる有能な相沢に感謝だ。

死ぬなよ?

椎菜。

椎菜のことを考えると、先程のことがフラッシュバックする。

昔と何ら変わっていない、柔らかい、弾力のある唇。

昔、恋仲だった高校生の頃より、豊かになったであろう、胸の膨らみ。

それを隠すように顔を出した黒いレースとフリルは、その下を想像させて俺の雄のスイッチを再びONにした。

放課後によく彼女を屋敷に呼んでは、問答無用で部屋に連れ込んだ。

そして、高校生らしからぬ甘い時間を過ごした。

その際、よく所有印を残した鎖骨は、昔と変わらず華奢なままだった。

……触れたい。

彼女に触れる権利があるのは、俺だけだ。

1度距離を置いてからは、彼女の裸は目にしたことは無い。

俺の考えていることが分かったのだろうか。
ふと、相沢が口を挟む。

「麗眞坊っちゃま。

お忘れでは?

この間、バカンスの際にご覧になったではありませんか。
椎菜さまの水着姿を」

忘れてた!

数ヶ月前に見た、椎菜の水着姿を思い出す。

2つの胸の膨らみは、赤い布地で覆われていてインパクトがあった。

彼女自身の大事な、秘密の園を覆う布地は花柄だった。

そこに水着の上からでも触れたいくらいだった。

ピンクとか、薄いブルー、はたまたラベンダーとかを予想していた。

赤で来るとは、完全に予想外だったのだ。

椎菜が自ら選ぶ色ではなかった。

「ふふ、あれはお気に召して頂けたようで。

椎菜様をお祭りやらプールに誘うにあたり、あの水着や浴衣は私が見繕いました。

麗眞坊っちゃまの好みを把握している私だからこそ、為せる技でございます。

まさか、椎菜さまの水着姿を拝見して、麗眞坊っちゃまが鼻血を出されるとは予想外でしたが」

あれ、相沢のセレクトだったの?

水着は、椎菜の色気が引き立つように。

浴衣は、椎菜の可憐さや可愛さがより引き立つように。

やるな、相沢。

さすがは有能な俺の執事だ。

散々、自分の彼女の色気ある水着やら浴衣姿を想像したせいか、下半身の雄が制御不能になっていた。

「麗眞坊っちゃま。

病院に到着致しましたら、椎菜さまの病室の前に御手洗に、行かれるといかがかと。

その状態ですと、椎菜さまがビックリされてしまいますよ」

男性同士だからなのか、相沢にはバレていたらしい。

「高沢から聞きました。

彼が到着した際も、ズボンの上からでも分かるくらい、ヤバい状態だったと言うことですが。

まぁ、椎菜さまが着ていらしたブラウスのボタンを外したのは麗眞坊っちゃまでしょうから、当然といえば当然かと」

高沢にまでバレてたのか……
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