太陽と雪
ふと運転席から聞こえてきた俺の名前を呼ぶ相沢の声で我に返る。

椎菜のあの頃の服装を思い出していると下半身の雄が大きさを増したのがわかった。


「そうなの?」

「ええ。そのようです。
というか、本人が仰っておられましたからね」


ってことは、まさか……
ベタだけど……

その先輩獣医師の人を、新しい彼氏だと勘違いしてた……

ってこと?


うわ……笑えない!


俺以外の男と歩いている椎菜を見て、ショックを受けた。

椎菜には、俺だけだと思っていた。

距離を置いているだけで、まだ別れてはいないのに。

なぜ他の男と歩いているんだ、と。

親父やおふくろ、関係のない姉さんにまで当たり散らして。

あの日は相当荒れた。

めったに怒らない親父にまで怒られた。

「ネガティブな感情をコントロール出来ない奴は宝月家の人間として相応しくない!
この屋敷から出ていけ!」

そうまで言われたのは、さすがに堪えた。

しかも、この類のやり取りは椎菜に距離を置きたいと言われた日にも1度経験している。

荒れている俺を見かねた相沢が、気分転換にとプラネタリウムに連れ出してくれて、屋台で食うタイプのおでんを奢ってくれた。

宝月の屋敷以外で食うご飯は久しぶりで、美味かった。


宝月の長男として、それってどうなの?

親父や姉さんにも迷惑かけたし。

姉さんにこのオチを話したら、絶対に爆笑されるな……

「麗眞坊ちゃま、ご安心くださいませ。

たった今、高沢から電話がありまして、椎菜様は命の危機は脱したそうです」

「そうなの?
ってか、命の危機って……

さっきまであったの?」

「はい。
先程まで脱水症状がかなり酷かったようで。

高沢にしては珍しく、処置に手間取ったとご連絡が」

「そっか……ありがと。
高沢にあとでお礼言っておいて?
相沢」


「かしこまりました。
おまかせを、麗眞坊っちゃま。

噂をすれば。
高沢から、麗眞坊っちゃま宛にお電話でございます」


丁度高沢から電話が入ったという。
ナイスタイミング。


「もしもし?

高沢か?

ありがと。

椎菜のこと。

高沢がいい働きしたって、ちゃんと親父に報告しておくから」

『お気になさらず。

礼には及びません。

麗眞さまの大事な方ですから。

意地でも処置を致しませんと。

当然のことをしたまでです。

むしろ椎菜さまに何かあれば私が旦那様に首を切られますよ』


いや、親父のことだ、高沢をクビにしたりはしないだろ。

有能だし。


『もう間もなくでこちらにご到着されるそうですね。

お気を付けて、いらしてくださいませ、麗眞坊っちゃま』


「分かってる」


『椎菜さまも、麗眞さまのこと、待っておりますよ?』


「分かってる。

椎菜のためにも、なるべく早く着くから。

じゃあ、また後で」


高沢との通話を切ってから数分して、椎菜のいる病院に着いた。

御手洗に立ち寄り、滾る自らの雄を自分でなだめてから、椎菜のいる病室に向かった。

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