太陽と雪
相変わらず、律儀に病院の外でリムジンに乗りながら待っていた相沢。
「先、帰っていて良かったのに……」
「なぜです?
私は、麗眞坊ちゃまの執事です。
麗眞坊ちゃまの身に何かあったら、お困りになるのは椎菜さまでは?」
「だな……
確かにそのとおりだ。
ごめん、相沢」
「いいえ」
家に着くまでの間、しばし無言だった。
家に着くと、リビングには、親父やおふくろだけではなく、姉さんまでいた。
「珍しいな。
この時間に全員居るの」
「たまにはいいでしょうが。
家にいて悪いのかしら」
「そうだぞ、麗眞。
メイがこの時間に家にいるの、貴重なんだ」
「蓮太郎……!
人をもの珍しい宝石みたいに言わないで!」
「だって事実じゃないか」
あーもう……
また始まったよ……
傍から聞いているとコントのようなイチャイチャが。
暑いんだけど。
部屋の温度が5℃くらい上がった気がする。
「もう……親父もおふくろも。
イチャつくなら部屋戻ってやって。
暑苦しい」
「ごめん」
「俺だって疲れてるんだからさ、早く。
話あるんでしょ?
俺と椎菜のことで」
「ああ」
「で……その前にごめん。
急に電話切ったりして。
ビックリしたの」
「お前が謝ることじゃない。
俺も反省してるんだ。
あの場であの話は、心臓に悪かったな。
ちょっとからかうつもりだったんだ」
いやいや!
俺、いつまでも親父にからかわれるような歳じゃないんだけど……
「で、本題に入る。
麗眞、お前……本気で結婚する気、あるのか?
椎菜ちゃんと」
「あるけど。
悪い?」
「落ち着きなさいな、麗眞。
貴方が結婚しちゃダメだとか、パパもママも一言も言っていないでしょ?」
そこで姉さんが口を挟むか……
「そうよ?麗眞……
私たちはむしろ歓迎しているのよ?
貴方の結婚」
マジかよ……
「近々、椎菜ちゃんの両親とも会って話をまとめる。
椎菜ちゃんの両親と知り合いだし、すぐまとまるだろ」
そういえば、椎菜と俺が高校生の頃、椎菜もそんなこと言ってた気がするな……
『きっと、私の両親も、麗眞のお父さんのことは知ってるはずだよ、今度聞いてみるね』
って。
「椎菜ちゃんの両親と俺は高校生の頃、少しだけ関わりがあってな。
俺は中学生のとき、アメリカにいたんだ。
もしそうじゃなかったら、彼ら、つまりは椎菜ちゃんの両親と同じ教室で授業受けていただろうし」
そうなのか……
「うん。
とりあえず…そういうことで……
親父たちで出来るところは頼んだ。
それ以外は俺が自分で動いてみる。
よろしく」
俺はそれだけを言って、廊下を走りたいくらいだったが、抑えて早歩きにしながら自室に戻った。
俺と椎菜が結婚、かぁ。
想像つかないなぁ。
とりあえず、寝るか。
オレは、シャワーすら浴びることなく、深い眠りに落ちた。
翌朝、アラームで飛び起きた。
時計の針は既に、朝の8時を指している。
ヤバい……!
1限、9時20分からだし…
1限の時間から、体育学部向けの護身術の講義なのだ。といっても、実技だけど。
「相沢、悪いんだけどさ……
飯、車内で食えるやつにして?」
「そうおっしゃるだろうと思いまして、サンドウィッチを用意してございます」
さすが相沢。
気が利くな。
オレの心の内が読めたのだろうか。
「執事ですからね」
とニッコリ笑って言う。
軽くシャワーを浴びて着替えた後、リムジンに乗り込む。
「相沢さ。
アプローチしないの?
美崎さんに」
サンドイッチにしてはフランスパンに具が挟んであるパンを咀嚼しつつ、社内の相沢に話しかけてみた。
俺としては相沢と美崎さんの恋愛模様も気になるのだ。
「私のことは……今はいいではないですか。
麗眞坊ちゃまが本当に好きな方と幸せになっていただく。
執事冥利に尽きます。
麗眞坊ちゃまが椎菜さまと幸せになるのを見届けてから、自分の幸せは考えます」
何で俺なんだ……
それから数分して、大学の敷地の外の門に到着したという相沢。
その声で、生徒たちに気付かれないうちにそっとリムジンから降りた。
「行ってらっしゃいませ、坊ちゃま」
オレの名前をわざと呼ばなかった相沢は、やはり気配りのできる優秀な執事だ。
「先、帰っていて良かったのに……」
「なぜです?
私は、麗眞坊ちゃまの執事です。
麗眞坊ちゃまの身に何かあったら、お困りになるのは椎菜さまでは?」
「だな……
確かにそのとおりだ。
ごめん、相沢」
「いいえ」
家に着くまでの間、しばし無言だった。
家に着くと、リビングには、親父やおふくろだけではなく、姉さんまでいた。
「珍しいな。
この時間に全員居るの」
「たまにはいいでしょうが。
家にいて悪いのかしら」
「そうだぞ、麗眞。
メイがこの時間に家にいるの、貴重なんだ」
「蓮太郎……!
人をもの珍しい宝石みたいに言わないで!」
「だって事実じゃないか」
あーもう……
また始まったよ……
傍から聞いているとコントのようなイチャイチャが。
暑いんだけど。
部屋の温度が5℃くらい上がった気がする。
「もう……親父もおふくろも。
イチャつくなら部屋戻ってやって。
暑苦しい」
「ごめん」
「俺だって疲れてるんだからさ、早く。
話あるんでしょ?
俺と椎菜のことで」
「ああ」
「で……その前にごめん。
急に電話切ったりして。
ビックリしたの」
「お前が謝ることじゃない。
俺も反省してるんだ。
あの場であの話は、心臓に悪かったな。
ちょっとからかうつもりだったんだ」
いやいや!
俺、いつまでも親父にからかわれるような歳じゃないんだけど……
「で、本題に入る。
麗眞、お前……本気で結婚する気、あるのか?
椎菜ちゃんと」
「あるけど。
悪い?」
「落ち着きなさいな、麗眞。
貴方が結婚しちゃダメだとか、パパもママも一言も言っていないでしょ?」
そこで姉さんが口を挟むか……
「そうよ?麗眞……
私たちはむしろ歓迎しているのよ?
貴方の結婚」
マジかよ……
「近々、椎菜ちゃんの両親とも会って話をまとめる。
椎菜ちゃんの両親と知り合いだし、すぐまとまるだろ」
そういえば、椎菜と俺が高校生の頃、椎菜もそんなこと言ってた気がするな……
『きっと、私の両親も、麗眞のお父さんのことは知ってるはずだよ、今度聞いてみるね』
って。
「椎菜ちゃんの両親と俺は高校生の頃、少しだけ関わりがあってな。
俺は中学生のとき、アメリカにいたんだ。
もしそうじゃなかったら、彼ら、つまりは椎菜ちゃんの両親と同じ教室で授業受けていただろうし」
そうなのか……
「うん。
とりあえず…そういうことで……
親父たちで出来るところは頼んだ。
それ以外は俺が自分で動いてみる。
よろしく」
俺はそれだけを言って、廊下を走りたいくらいだったが、抑えて早歩きにしながら自室に戻った。
俺と椎菜が結婚、かぁ。
想像つかないなぁ。
とりあえず、寝るか。
オレは、シャワーすら浴びることなく、深い眠りに落ちた。
翌朝、アラームで飛び起きた。
時計の針は既に、朝の8時を指している。
ヤバい……!
1限、9時20分からだし…
1限の時間から、体育学部向けの護身術の講義なのだ。といっても、実技だけど。
「相沢、悪いんだけどさ……
飯、車内で食えるやつにして?」
「そうおっしゃるだろうと思いまして、サンドウィッチを用意してございます」
さすが相沢。
気が利くな。
オレの心の内が読めたのだろうか。
「執事ですからね」
とニッコリ笑って言う。
軽くシャワーを浴びて着替えた後、リムジンに乗り込む。
「相沢さ。
アプローチしないの?
美崎さんに」
サンドイッチにしてはフランスパンに具が挟んであるパンを咀嚼しつつ、社内の相沢に話しかけてみた。
俺としては相沢と美崎さんの恋愛模様も気になるのだ。
「私のことは……今はいいではないですか。
麗眞坊ちゃまが本当に好きな方と幸せになっていただく。
執事冥利に尽きます。
麗眞坊ちゃまが椎菜さまと幸せになるのを見届けてから、自分の幸せは考えます」
何で俺なんだ……
それから数分して、大学の敷地の外の門に到着したという相沢。
その声で、生徒たちに気付かれないうちにそっとリムジンから降りた。
「行ってらっしゃいませ、坊ちゃま」
オレの名前をわざと呼ばなかった相沢は、やはり気配りのできる優秀な執事だ。