太陽と雪
次の日。

授業で本格的に護身術を教えた。

男相手に拉致られそうになったときを想定して細かく、丁寧に教えていく。


「あ、俺は見本のみ見せる。
後は、二人でペアになって練習すること」

「え?
麗眞先生は……?」

ある女子生徒は、俺に気があるらしい。

分かりやすすぎる。

「コラ、汐里(しおり)

先生にそんなこと言わないの。

いろいろ事情があるんでしょ」


「すみません……」

講義を終えると、人目につかないところで相沢のリムジンに乗り、真っ直ぐに椎菜のいる病院に向かった。


「あ、麗眞!

待ってたよ!

今日はどんな護身術を教えたの?」

俺が椎菜の病室のドアをノックして入るなり、こんな感じで問いかけてくる。

今日も椎菜は病院着だ。

軽く抱き寄せてやると、椎菜の方から軽く唇にキスをくれた。

可愛くて俺からもキスのお礼にご褒美をあげたかったが、そんなことをしたらせっかく落ち着かせた下半身がまた制御不能になる。

それは避けたい。

椎菜を腕から放し、近くのパイプ椅子に腰を下ろした。

「だって、妬けちゃうな。

私より年下の子に教えてるんでしょ?

麗眞みたいなカッコイイ先生だったら、絶対学生の誰かは好きになっちゃうでしょ。

嫌なの、そういうの」


「そうなの?

まあ、安心しろって。

椎菜が心配してるようなことないし。

俺は椎菜にしか欲情しないの」

俺が頭を撫でながらそう言ってもなお、ハムスターみたいに両頬を膨らませて拗ねる椎菜。

見ていて可愛すぎて、抑えていた理性は簡単に吹っ飛んだ。

マジで壊したい。


「そんな心配なら、どんなことやったか……丁寧に教えるけど?
今、ここで」

そう言って、おもむろに椎菜の横たわる栄養剤や点滴のチューブが繋がれたベッドに歩を進める。

椎菜にそっと覆い被さろうとした瞬間。


外からの規則的なノックの音が4回ほど部屋に響き渡った。

チッ、とごく軽く舌打ちをする。

何でいつもいつも、いい雰囲気のときに邪魔が入るんだよ。

空気読め!

「ごめんね麗眞。
あ、どうぞー」

椎菜の声に応えたのは、朱音さんだった。
普段は長い黒髪を下ろしているのだが今日は結っていた。

「椎菜ちゃん。入るわよ?

体調はどうかしら。

って、あら、麗眞くん。
来てたの?」

「はい。
こんにちは、朱音さん」


「たった今、椎菜ちゃんの両親がお見舞いに来たのよ。

何か、貴方にも言いたいことがあるみたい。

来ていないようなら電話しようと思っていたから助かったわ。

じゃあ、ゆっくりしていっていいから」

朱音さんはそう言うと、椎菜に微笑みかけて病室をあとにした。

ったく……
言いたいことって何だよ。
何言われるんだか。

まさか……まさか、言われないよな。

『椎菜とは別れてくれ』だなんて……
そんなのはまっぴらごめんだ。

「なーに緊張してるのよ、麗眞らしくないよ?

過保護だから私を心配して来ただけよ。

多分ね。

だから、麗眞は気にしないで?」

一生懸命、俺の不安や緊張を失くそうという椎菜の言葉に感謝だ。

ふと、窓の外を見ると、俺が病院に来たときと同じ真っ青な空がどこまでも続いていた。

さっきの椎菜の言葉で、不安や緊張はどこかに吹き飛んでしまったようだ。

「俺の大事な姫のおかげで緊張解けた、
ありがと」

軽く唇にキスをすると、椎菜がそっと俺の胸板を押してくる。

「んー?どしたの、椎菜」

「最中に両親来たら気まずいから、後にして?
そんな優しいのじゃ足りないから、後でね」

「後でならもっとしていいの?椎菜」

「今じゃなくて、後でがいい。

会えない間寂しかったからその分、
キス、したいなぁ」

「椎菜、お前さ。

しばらく見ない間にそんな可愛い誘い方、どこで覚えたの?

理性保たなくなるじゃん。

可愛い姫の頼みならいつでも聞くに決まってるでしょ?

じゃ後でいっぱい、な」


「わーい!ありがとー!」

そんな会話をしていると、規則的なノックの音が病室に響いた。

椎菜の両親のお出ましのようだ。
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