太陽と雪
相沢だけを屋敷に行かせてから、1時間ほど経った頃だろうか。

パイプ椅子をベッドギリギリまで寄せる。

可愛い姫のお望み通り、病院に似つかわしくない水音を響かせながら何度も角度を変えてキスを交わす。

「麗眞、も、これいじょ、ダメぇ……」

「椎菜?

お前から誘っておいて、それは反則。

もう少し味わわせて?」

椎菜の手を俺の下半身の膨らみにそっと触れさせると、耳まで真っ赤にする。

「その反応、可愛い」

俺の左手は椎菜の背中を支えながら、右手は病院着をはだけさせて胸元に伸びている。

この感触は数年ぶりだ。

高校時代も相当な大きさだったが、その頃より膨らみの大きさは増している。

もう少しこの柔らかさに浸っていたい。

そう思ったときだった。

「相沢です。

麗眞坊っちゃま、椎菜さま。
いらっしゃいますか?」

相沢の声だ。

チッ、タイムオーバーか。

「早いな……相沢」

「相沢さん、お疲れ様です。
入っていいですよ?」


「失礼します」

律儀に頭を下げて入ってきた相沢。

その隙に椎菜は乱れた病院着を直していた。


「いいの見つかった?」

海が綺麗に見えること、近くに親族皆が泊まれるようなホテルがあること。

料理の質がよいこと、二次会の会場として相応しい場所があるということ。

その4つの条件は既に相沢に伝えてある。

「はい。

こちらとこちらはいかがかと。

しかし、両方ともイタリアに飛ばなくてはなりません。

こちらのアマルフィ海岸を見下ろす教会が椎菜様のご希望にピッタリではないかと」

「イタリアまで行くの?

俺はいいけど、椎菜は大丈夫なの?

飛行機は俺を心配してカナダまで来てくれたあの日以来だろ」

「大丈夫に決まってるでしょ!

ついでにハネムーンもしたいし!

麗眞と一緒になれるんだもん。

有給もまだまだ残ってるし、平気だよ!」

ったく……
女ってホント、好きだよな。
海。

俺の可愛くて色っぽいお姫様が言うなら、その希望を叶えるために動くまでだ。

よし。

「とりあえず、下見がてら、椎菜の体調が完全に治ったら一緒に行くか、イタリア。

まだ時間はたっぷりある。
イタリアがハズレだったら、日本国内でもいいしな」

「うん!」

「あわよくば、イタリアでの婚前旅行のときに式までの間のタイミングはかって、デキ婚でも狙っちゃう?

俺はそれでもいいけど。

椎菜からの妊娠の報告、今度はちゃんと、紙の上じゃなくて椎菜の口から聞きたいからさ」

「んも、麗眞!」

相沢に聞こえないように耳元でそう言うと、顔を真っ赤にして、照れる俺のフィアンセが可愛すぎる。

俺自身、本当にこのときは浮かれっぱなしで甘かったなんて。

まだこの時は気付かなかった。

俺が早く気づいていれば、一瞬たりとも椎菜に悲しい顔をさせずに済んだのに。

椎菜だけじゃなく、俺の姉さんや親父やおふくろや椎菜の両親にまで。
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