太陽と雪
ふと携帯電話の電源を入れると、着信が4件。
1件は相沢からだった。
帰れないだろうし、雨に打たれて健康を損なうようでは困るのでキャンパス内まで車を走らせてくれるらしい。
他3件は全て椎菜からだった。
雷が苦手な椎菜は、講義終了後、屋根のある手前の建物に避難していたらしい。
最後の着信は、携帯の電池残量が5%のため、もう連絡できないということだった。
この着信は、20分前に残されたものだ。
……まだ、この少し手前の、本屋とカフェがある建物にいるのだ。
雨の降り方が、先程より強い。
この雨はどうやら、椎菜の心の内を表しているらしい。
俺は、幼少期から椎菜が苦手なものが雷であることを知っている。
天気が荒れて雷が鳴ると、よく椎菜は俺の屋敷に来て、独りだと怖いから一緒にいてほしいと可愛いおねだりをしてきたものだ。
それなのに、なぜ迎えに来ないのだと。
寂しがり屋の椎菜は、今頃、俺が急いで着替えている間にも一人で泣いているのだ。
傘をさすのすらもどかしい。
傘を両手に持って全速力で走り、椎菜のいる建物に向かった。
建物に向かうと、ポケットから学生時代の友人皆が持っている機械を取り出す。
搭載されているGPS機能は、もう一つの端末がここにある、つまり椎菜がこの建物内にいることを示していた。
「椎菜……!」
ありったけの声で彼女の名を叫んだ。
俺の周りだけ、急速に空気が震え、そして蒸発した。
辺りは一瞬で真っ暗闇に包まれた。
停電したらしい。
なんてことだ。
ついてねーの。
「麗眞……!」
その一言だけで、彼女の周りに多くの鳥が集まってきそうなくらい透明度の高い声。
柔らかい、シルクみたいな手触りの髪。
それよりもさらに柔らかい、トランポリンのように弾力性のある2つの胸の膨らみ。
それで分かる。
俺に抱きついてきているのは、椎菜だ。
「椎菜……
ごめん。
ずっと独りでいさせて。
婚約者失格、だな。
怖かったろ?」
「もう大丈夫……
それより……麗眞、ごめん。
バレたよ……
学生の一人に。
私と麗眞が婚約者だって」
「いいじゃん。
バレようが。
バレたもんは仕方ねえよ。
公私混同、しなければいいんだし。
今度は、学長にバレないようにしなきゃな」
そう言って、彼女を優しく抱き寄せてから額に軽く口付ける。
しばらくして、何も判断しえない暗闇を破るまばゆいヘッドライトが辺りを照らした。
暗い部屋に閉じ込められた俺たちを、その人物は鍵を泥棒もビックリのピッキングで開けて、助け出してくれたのだ。
「麗眞坊ちゃま?
それに椎菜さま!
ご無事で何よりです」
「相沢か……」
助かったな……
「さあ、麗眞坊ちゃま、椎菜さま、早く車にお乗りください」
相沢によってリムジンに乗せられた。
「麗眞……平気?
濡れネズミだよ?
色気滲み出てカッコいいけど。
ふふ」
きちんと服を着込んだまま、滝に打たれて修業した直後の人間のようだ、と相沢に言われた。
笑ってばかりもいられない。
椎菜は昔、無謀にも大雨の中、両親を待ち続け肺炎を起こしたことがあるのだ。
屋敷に戻ると、宝月家の専属医師、高沢に内線を繋いだ。
1件は相沢からだった。
帰れないだろうし、雨に打たれて健康を損なうようでは困るのでキャンパス内まで車を走らせてくれるらしい。
他3件は全て椎菜からだった。
雷が苦手な椎菜は、講義終了後、屋根のある手前の建物に避難していたらしい。
最後の着信は、携帯の電池残量が5%のため、もう連絡できないということだった。
この着信は、20分前に残されたものだ。
……まだ、この少し手前の、本屋とカフェがある建物にいるのだ。
雨の降り方が、先程より強い。
この雨はどうやら、椎菜の心の内を表しているらしい。
俺は、幼少期から椎菜が苦手なものが雷であることを知っている。
天気が荒れて雷が鳴ると、よく椎菜は俺の屋敷に来て、独りだと怖いから一緒にいてほしいと可愛いおねだりをしてきたものだ。
それなのに、なぜ迎えに来ないのだと。
寂しがり屋の椎菜は、今頃、俺が急いで着替えている間にも一人で泣いているのだ。
傘をさすのすらもどかしい。
傘を両手に持って全速力で走り、椎菜のいる建物に向かった。
建物に向かうと、ポケットから学生時代の友人皆が持っている機械を取り出す。
搭載されているGPS機能は、もう一つの端末がここにある、つまり椎菜がこの建物内にいることを示していた。
「椎菜……!」
ありったけの声で彼女の名を叫んだ。
俺の周りだけ、急速に空気が震え、そして蒸発した。
辺りは一瞬で真っ暗闇に包まれた。
停電したらしい。
なんてことだ。
ついてねーの。
「麗眞……!」
その一言だけで、彼女の周りに多くの鳥が集まってきそうなくらい透明度の高い声。
柔らかい、シルクみたいな手触りの髪。
それよりもさらに柔らかい、トランポリンのように弾力性のある2つの胸の膨らみ。
それで分かる。
俺に抱きついてきているのは、椎菜だ。
「椎菜……
ごめん。
ずっと独りでいさせて。
婚約者失格、だな。
怖かったろ?」
「もう大丈夫……
それより……麗眞、ごめん。
バレたよ……
学生の一人に。
私と麗眞が婚約者だって」
「いいじゃん。
バレようが。
バレたもんは仕方ねえよ。
公私混同、しなければいいんだし。
今度は、学長にバレないようにしなきゃな」
そう言って、彼女を優しく抱き寄せてから額に軽く口付ける。
しばらくして、何も判断しえない暗闇を破るまばゆいヘッドライトが辺りを照らした。
暗い部屋に閉じ込められた俺たちを、その人物は鍵を泥棒もビックリのピッキングで開けて、助け出してくれたのだ。
「麗眞坊ちゃま?
それに椎菜さま!
ご無事で何よりです」
「相沢か……」
助かったな……
「さあ、麗眞坊ちゃま、椎菜さま、早く車にお乗りください」
相沢によってリムジンに乗せられた。
「麗眞……平気?
濡れネズミだよ?
色気滲み出てカッコいいけど。
ふふ」
きちんと服を着込んだまま、滝に打たれて修業した直後の人間のようだ、と相沢に言われた。
笑ってばかりもいられない。
椎菜は昔、無謀にも大雨の中、両親を待ち続け肺炎を起こしたことがあるのだ。
屋敷に戻ると、宝月家の専属医師、高沢に内線を繋いだ。