太陽と雪
急いで俺の部屋に戻る。

「高沢……」

ちょうど良いタイミングで、廊下を小走りする高沢とすれ違った。

白衣をしっかり着込んだ高沢を見ると、自分が今見ている景色は幻で、ここは本当は病院なのではないかという気さえしてしまう。

研修医の頃から着ていた愛着品なのだろう。

「高沢 輝」というネームプレートの周りは剥げ落ち、白衣はところどころ、薬品の汚れが目立っている。

カッコいいな、と少し思った。

「麗眞さま?

どうされましたか?
ぼんやりしていらっしゃいますが……」

「ん?医者ってカッコいいな、って少し思ったんだよ。

同時に、今は研修医を経て医者やってる俺の同級生を思い出した。

……椎菜、かなり苦しそうな咳してるし、息荒いんだ、もしかして熱もあるかもしれない」


それまでの笑みを浮かべた表情から、急に笑みが消え、真剣な表情になった。

それはまるで、患者、あるいはその家族と話していた矢先、別の患者の危篤を知らされたときのようだった。

「高沢……」

「かしこまりました。

とりあえず、呼吸器内科とも連携し、迅速な処置をお約束します」


俺にそう一礼すると、俺の部屋に入ったきり出てこなくなった。

すると……

俺の携帯が着信を奏でた。

知らない番号だったが、電話に出てみた。

「もしもし」

「あ、麗眞くん?」


少し、女性にしては低めの声が機械を通して伝わってくる。

先程も話に上がった、医者をしている俺の同級生だ。

看護師をしていた母親をガンで亡くしてからというもの、自らも医師を目指すようになった女性、岩崎 理名(いわさき りな)

高校時代も暇さえあれば勉強をしており、しょっちゅう目の下に隈を作って登校していた。

無事に留年もすることなく、医師国家試験も通ったようだ。

「理名……」

まだ未熟だが、呼吸器内科医として、大学付属病院でせっせと働いている。

ようやく自分の研修医を持てたのだと、先日連絡をくれたのを覚えている。

「椎菜ちゃんのことでしょ?
すぐ分かるわ。

昔から呼吸器、弱かったもんね」

「ああ」

やがて、椎菜は高沢と理名と共にドクターヘリで運ばれていった。

理名は不安そうな顔をする俺の肩をポン、と音がするくらいの力で叩いて言った。

「私に任せてよ、麗眞くん。

椎菜ちゃんみたいな子を救うために呼吸器内科医専攻したんだから。

大丈夫。

下手したら貴方自身の命より大事な椎菜ちゃんを死なせたりしないから」

ほんと頼もしいな。

医者が知り合いって。




< 195 / 267 >

この作品をシェア

pagetop