太陽と雪
理名ちゃん。
高校の頃の同級生だ。
俺と椎菜と理名ちゃん。
高校の入学式の日に仲良くなった。
今の彼氏、拓実とは高校こそ違えど、予定が合えば会っていて、デートもしていた。
どう見ても両想いなのに、なぜどちらも早く気持ちを言わないのか、とてももどかしく思いながらお互いの関係を見ていた。
しかし、理名と拓実は、偶然にも同じアルバイト先のカフェを選んだ。
大学受験が近づき、バイトどころじゃなくなったのもあるが、ある出来事がキッカケでカフェの経営が危うくなり、全員辞めたのだ。
その後、拓実はドイツへ短期留学に行くこととなって離れたが、連絡はとっていた。
大学は確か2人とも同じで、大学に入学した後から正式に付き合っていたと記憶している。
俺の方は、ちょくちょく拓実とお互いの近況についての連絡をとっているというのは、理名ちゃんには今のところ秘密にしている。
「それでね、理名ちゃん、今は拓実くんと結婚を前提に同棲しているみたいなんだけど」
その話は、先日の同窓会の時に、理名本人から聞いた。
幸せそうに頬を緩める姿は、昔の俺と椎菜を見ているかのようだった。
「だけどね、拓実くんが最近、なかなか家に帰ってこないみたいで。
まぁ、浮気なのか他の事情なのかは、何も分からないんだけど。
理名ちゃんも自分が悪いんだって、自分自身を責めちゃってね……
拓実くんには自分が不妊症だってことは当然のごとく言ってないみたいなの。
彼だってちゃんと男性なんだから、自分の遺伝子は残したいはず。
そのための行為が出来ないのは申し訳ない、ってね。
彼も知らないからね……
理名ちゃんのそんな事情については。
相手してくれないから、その欲を解消するためにってところなんじゃないかしら」
「そんなことになってたのか……
俺、理名の友達って明言してたのにな。
あと、拓実の友達とも。
悔しいよ、どちらの様子にも気づいてやれなかったのが。
2人とも、似た者同士で責任感強いからなぁ」
俺がそう小さく呟いた時だった。
「私の口から言わなくても、全部朱音さんが喋ってくれちゃいましたね」
作り笑いをマジックで描いたお面を貼り付けたような笑顔を浮かべている。
重々しいヒールの音を響かせてこちらへ歩いて来た理名。
顔を洗ってくるだけにしては、やけに戻るのが遅かった。
「理名……」
「麗眞くんはね、気にしなくていいのよ?
私のことなんて……
それより、椎菜の心配をしてあげれば?」
「椎菜がどうした?
理名…」
「検査の結果を伝えるわね?
……ただの風邪から来る肺炎じゃなかったわ。
やはりマイコプラズマ肺炎よ」
「なんなの?
それ…」
「ん?
マイコプラズマ菌が体内に入ることで起こる肺炎よ。
診断が難しいの。
これ、肺炎にしては元気だからね……
通常は、診断に3週間くらいかかるの。
けれど、早めに診断を出せる特殊な方法を使ったのよ。
感謝しなさいな。
深夜に、いる人のみならず帰宅の途についた人も誰彼構わず呼びつけたわ。
緊急カンファレンスで上の人間を論破して納得させるの、かなり大変だったんだから」
「ありがと、理名」
「今は点滴してるわ。
呼吸器症状が結構重かったし、自力で水すらも飲めない状態だったしね。
全く、椎菜ったら。
数か月前にも急性ウイルス性胃腸炎になって私のいる病院に担ぎ込まれて来たし。
獣医に大学の非常勤講師。
高校時代の深月ほどじゃないけど、2足のわらじ履いてるんだから、もう。
無理するなってさんざん言ったのに。
麗眞くん、椎菜と結婚したら、ちゃんと健康に気を遣ってやるのよ」
「ありがと。ホント。
しつこいようだけど、理名ちゃんが知り合いで助かったわ」
そんなことを言っていると、理名の顔に少しだけいつもの笑顔が戻った気がした。
高校の頃の同級生だ。
俺と椎菜と理名ちゃん。
高校の入学式の日に仲良くなった。
今の彼氏、拓実とは高校こそ違えど、予定が合えば会っていて、デートもしていた。
どう見ても両想いなのに、なぜどちらも早く気持ちを言わないのか、とてももどかしく思いながらお互いの関係を見ていた。
しかし、理名と拓実は、偶然にも同じアルバイト先のカフェを選んだ。
大学受験が近づき、バイトどころじゃなくなったのもあるが、ある出来事がキッカケでカフェの経営が危うくなり、全員辞めたのだ。
その後、拓実はドイツへ短期留学に行くこととなって離れたが、連絡はとっていた。
大学は確か2人とも同じで、大学に入学した後から正式に付き合っていたと記憶している。
俺の方は、ちょくちょく拓実とお互いの近況についての連絡をとっているというのは、理名ちゃんには今のところ秘密にしている。
「それでね、理名ちゃん、今は拓実くんと結婚を前提に同棲しているみたいなんだけど」
その話は、先日の同窓会の時に、理名本人から聞いた。
幸せそうに頬を緩める姿は、昔の俺と椎菜を見ているかのようだった。
「だけどね、拓実くんが最近、なかなか家に帰ってこないみたいで。
まぁ、浮気なのか他の事情なのかは、何も分からないんだけど。
理名ちゃんも自分が悪いんだって、自分自身を責めちゃってね……
拓実くんには自分が不妊症だってことは当然のごとく言ってないみたいなの。
彼だってちゃんと男性なんだから、自分の遺伝子は残したいはず。
そのための行為が出来ないのは申し訳ない、ってね。
彼も知らないからね……
理名ちゃんのそんな事情については。
相手してくれないから、その欲を解消するためにってところなんじゃないかしら」
「そんなことになってたのか……
俺、理名の友達って明言してたのにな。
あと、拓実の友達とも。
悔しいよ、どちらの様子にも気づいてやれなかったのが。
2人とも、似た者同士で責任感強いからなぁ」
俺がそう小さく呟いた時だった。
「私の口から言わなくても、全部朱音さんが喋ってくれちゃいましたね」
作り笑いをマジックで描いたお面を貼り付けたような笑顔を浮かべている。
重々しいヒールの音を響かせてこちらへ歩いて来た理名。
顔を洗ってくるだけにしては、やけに戻るのが遅かった。
「理名……」
「麗眞くんはね、気にしなくていいのよ?
私のことなんて……
それより、椎菜の心配をしてあげれば?」
「椎菜がどうした?
理名…」
「検査の結果を伝えるわね?
……ただの風邪から来る肺炎じゃなかったわ。
やはりマイコプラズマ肺炎よ」
「なんなの?
それ…」
「ん?
マイコプラズマ菌が体内に入ることで起こる肺炎よ。
診断が難しいの。
これ、肺炎にしては元気だからね……
通常は、診断に3週間くらいかかるの。
けれど、早めに診断を出せる特殊な方法を使ったのよ。
感謝しなさいな。
深夜に、いる人のみならず帰宅の途についた人も誰彼構わず呼びつけたわ。
緊急カンファレンスで上の人間を論破して納得させるの、かなり大変だったんだから」
「ありがと、理名」
「今は点滴してるわ。
呼吸器症状が結構重かったし、自力で水すらも飲めない状態だったしね。
全く、椎菜ったら。
数か月前にも急性ウイルス性胃腸炎になって私のいる病院に担ぎ込まれて来たし。
獣医に大学の非常勤講師。
高校時代の深月ほどじゃないけど、2足のわらじ履いてるんだから、もう。
無理するなってさんざん言ったのに。
麗眞くん、椎菜と結婚したら、ちゃんと健康に気を遣ってやるのよ」
「ありがと。ホント。
しつこいようだけど、理名ちゃんが知り合いで助かったわ」
そんなことを言っていると、理名の顔に少しだけいつもの笑顔が戻った気がした。