太陽と雪
「ふう。
つっかれたぁ……」


そう言いながら、私はバフッと音をたててベッドに倒れ込む。


「彩お嬢様。
いかがですか?

お身体の具合は」


そう言いながら、矢吹はさりげなく、私の額に手を当ててくる。


直に感じる、彼の手の温もり。


あったかい……

安心する。

落ち着く。


藤原は…こんなことしてくれなかったな。

体温計渡してくれただけ。


藤原は必要以上には、私に触れてくることはしなかった。

もう、今となっては推測にしか過ぎない。

おそらくは、藤原は私の、自分自身への好意に気がついていた。

だから、私自身が主従関係の一線を踏み越えないように、との配慮からだったのだろう。


そう考えると、今、矢吹に看病をされてるのがすごく新鮮だった。


「熱は……微熱程度まで下がったようですね。

明日には確実に回復していることでしょう」



明日……

講演しに行くのか。


「経営者の何たるかについて」を。


泰名大学で……思い当たる節があった。

私の親友のことだ。

「矢吹。

私の机の引き出しに、入っているはずだから出してくれると助かるわ。

高校のときの卒業アルバム」


私がそう言うと、即座にアルバムを渡してくれた。

すぐに受け取って、クラスメイトが載っているページを開く。


あった。


"城竜二 美崎(じょうりゅうじ みさき)"。


城竜二財閥の社長令嬢。


私と同じだけど……規模は私のほうが上。

あっちは獣医師。

私は動物病院経営者だから。


確か……

泰名大学の獣医学科の非常勤講師も勤めていたはず。

「おや、ご学友……でございますか?
彩お嬢様の」


そう尋ねてくる矢吹。


「まあ……ね。
小学校のときに彼女が転校していったの。

何も言わず、突然のことだったわ。

ろくにお別れの言葉も言えなかった。

それで、もう会わないと思っていたけれど、高校のときに再会したのよ」

まあ……再会といっても、機会があれば話した程度ね。

同じクラスになったことは、一度もなかったし。


仲良くなんて出来るはずないわ。


だって……


城竜二と宝月……

名字は違えど、同じ財閥の社長令嬢ってだけで何かと張り合ってたんですもの。


お互い……進路だけは知ってたわ。


私は経営者の道。

美崎は獣医師。


お互い、違う大学に行ってからは、顔を合わせる機会はなくなったわ。


それにしても……泰名大学の大学院を出てからは、たまに非常勤講師もやってるって話だった。

そんな話は聞いたこともなかった。

メイドからは財閥の経営と動物病院の経営は執事に任せてるって話を噂程度に聞いていたくらいだ。


まぁ……いいわ。

私の知ったことじゃない。


まあ……
明日、運よく会えたら。

そのときはいろいろ話すつもりだ。


とりあえずは……
熱を下げることが先決だ。

「熱が下がるまで寝てるから、夕食が出来たら起こして」



矢吹が丁重に頭を下げるのを見てから、布団に潜り込んだ。

美崎、元気かなぁ。

そんなことを考えていると、いつの間にか意識は夢の中だった。
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