太陽と雪
椎菜、村西さん、俺、相沢の順にエレベーターに乗り込み、相沢が地下3階のボタンを押す。
バーに足を踏み入れると、所狭しとお酒が並べられライトに照らされたバーカウンターがあった。
村西さんはおもむろにスーツのジャケットを脱ぐと、シャツのボタンを捲り上げてカウンターに立った。
まだ時間がかかるというので2人で当たり障りのない話をする。
しばらくして、カウンターからシャカシャカという音が聞こえてきた。
それから間を開けずに椎菜の目の前にカクテルグラスが置かれる。
「安心して?
ちゃんとノンアルコールにしてあるから」
「ありがとうございます。いただきます」
ゆっくり、そのグラスに口を付ける椎菜。
「美味しいです。
口当たりは甘いんですけど、後から爽やかな風味がきますね」
「椎菜ちゃんみたいなお酒呑めない子には甘いほうがいいからね。
あと、麗眞の部屋にいたであろう君の身体から紅茶の香りが漂ってきたことを考えると、椎菜ちゃんは炭酸得意じゃないのかなって。
だから炭酸じゃないやつにしたんだよね」
俺と少し会話していたあの数分でそんなことまで考えていたのか。
村西さん、さすが親父と仕事してただけあって鋭い。
そこが、親父に重宝されていたのか。
「麗眞にはスクリュードライバーをどうぞ。
酔って椎菜ちゃんに手を出すと困るし、度数低めにしておいた」
「酔ってなくても手は出しませんよ。
その辺りはちゃんと紳士です」
カクテルを半分まで減らした椎菜が、ゆっくり口を開いた。
「そういうこと、結婚までするなって両親から言われてたのよね私。
だから麗眞にはいつもやることやった上で夜にそういうことしてもらって……
被せるひと手間かかるから迷惑でしょ、ごめんね?」
「精神科医の知り合いが言ってたのを聞いたことがあってな。
女性が妊娠2ヶ月とかになっても明確に身体に変調あるわけじゃない。
それと気付かないまま症状が酷似しているから風邪だと勘違いをして、薬飲んだりしちゃうんだって。
その時期の薬やお腹への衝撃はダイレクトにお腹の子にダメージ与えるから、慎重にならなきゃダメな時期であるらしい。
それが分からないと君も困るだろう。
だからこそ、そういうことするなって、やるならきちんと避妊はしろと、君の、椎菜ちゃんの両親は言っているんだと思うな」
椎菜は村西さんのその言葉に頷く。
肯定の証だ。
「でもね、椎菜。
俺はこうも思うんだよね。
常日頃から自分の体調に気を配っている子であれば些細な自分の体調の変化にすぐ気付くと思うんだよね。
そういう人は、もしデキ婚してもちゃんとやっていける。
俺のおふくろみたいにね。
そうやっていこうよ、椎菜。
大丈夫。
何があっても、俺が支えるし」
椎菜と俺のグラスをさり気なく近づけながら言った。
ノンアルコールでも頬を赤く染める彼女に届くように。
何か思うところがあったのか、椎菜の目からは一筋、雫が溢れている。
「特別にアロマ入れてあるんだ、椎菜ちゃんのカクテルにだけ。
心のわだかまりを楽にする作用がある、調合は門外不出のアロマ。
懐かしいな、昔は今、君の婚約者に飲ませているのと同じものを、麗眞くんの両親にも呑ませたんだよ」
え?
そうなの?
何だか想像がつかない。
まだ、椎菜には吐き出せていないわだかまりがあることに、この時の俺は気づかないでいた。
バーに足を踏み入れると、所狭しとお酒が並べられライトに照らされたバーカウンターがあった。
村西さんはおもむろにスーツのジャケットを脱ぐと、シャツのボタンを捲り上げてカウンターに立った。
まだ時間がかかるというので2人で当たり障りのない話をする。
しばらくして、カウンターからシャカシャカという音が聞こえてきた。
それから間を開けずに椎菜の目の前にカクテルグラスが置かれる。
「安心して?
ちゃんとノンアルコールにしてあるから」
「ありがとうございます。いただきます」
ゆっくり、そのグラスに口を付ける椎菜。
「美味しいです。
口当たりは甘いんですけど、後から爽やかな風味がきますね」
「椎菜ちゃんみたいなお酒呑めない子には甘いほうがいいからね。
あと、麗眞の部屋にいたであろう君の身体から紅茶の香りが漂ってきたことを考えると、椎菜ちゃんは炭酸得意じゃないのかなって。
だから炭酸じゃないやつにしたんだよね」
俺と少し会話していたあの数分でそんなことまで考えていたのか。
村西さん、さすが親父と仕事してただけあって鋭い。
そこが、親父に重宝されていたのか。
「麗眞にはスクリュードライバーをどうぞ。
酔って椎菜ちゃんに手を出すと困るし、度数低めにしておいた」
「酔ってなくても手は出しませんよ。
その辺りはちゃんと紳士です」
カクテルを半分まで減らした椎菜が、ゆっくり口を開いた。
「そういうこと、結婚までするなって両親から言われてたのよね私。
だから麗眞にはいつもやることやった上で夜にそういうことしてもらって……
被せるひと手間かかるから迷惑でしょ、ごめんね?」
「精神科医の知り合いが言ってたのを聞いたことがあってな。
女性が妊娠2ヶ月とかになっても明確に身体に変調あるわけじゃない。
それと気付かないまま症状が酷似しているから風邪だと勘違いをして、薬飲んだりしちゃうんだって。
その時期の薬やお腹への衝撃はダイレクトにお腹の子にダメージ与えるから、慎重にならなきゃダメな時期であるらしい。
それが分からないと君も困るだろう。
だからこそ、そういうことするなって、やるならきちんと避妊はしろと、君の、椎菜ちゃんの両親は言っているんだと思うな」
椎菜は村西さんのその言葉に頷く。
肯定の証だ。
「でもね、椎菜。
俺はこうも思うんだよね。
常日頃から自分の体調に気を配っている子であれば些細な自分の体調の変化にすぐ気付くと思うんだよね。
そういう人は、もしデキ婚してもちゃんとやっていける。
俺のおふくろみたいにね。
そうやっていこうよ、椎菜。
大丈夫。
何があっても、俺が支えるし」
椎菜と俺のグラスをさり気なく近づけながら言った。
ノンアルコールでも頬を赤く染める彼女に届くように。
何か思うところがあったのか、椎菜の目からは一筋、雫が溢れている。
「特別にアロマ入れてあるんだ、椎菜ちゃんのカクテルにだけ。
心のわだかまりを楽にする作用がある、調合は門外不出のアロマ。
懐かしいな、昔は今、君の婚約者に飲ませているのと同じものを、麗眞くんの両親にも呑ませたんだよ」
え?
そうなの?
何だか想像がつかない。
まだ、椎菜には吐き出せていないわだかまりがあることに、この時の俺は気づかないでいた。