太陽と雪
姉さんに向かって上から目線でものを言う。


「貴方……
誰に向かって口聞いてるのかしら。

私の助けがなかったら、貴方が勤める会社なんてとっくに買収されて、存続していなかったのよ?

ちょっとは感謝しなさいな」


「そのことに関してはお礼を言うよ。
ありがとうございます。

だけど、それとこれとは話が違う」

「悪いのかしら?
執事として以上に矢吹を頼りにしちゃいけないなんて、法律では決まっていないわよ?」


「だから、それが"好き"ってことなんだよ。

そんなのも分からないのか。

恋愛に疎い生粋のお嬢さまだな」

「好き?
私が?
矢吹を?

……ありえないわ。

一緒にいて気が楽ってだけよ」

「じゃあ……あれは演技だったの?

さっき矢吹さんに向かって死んじゃ嫌だとか言いながら泣き叫んでたの。

あれが本心でしょ?

好きじゃなかったら、感情的に取り乱すなんてこと、ないだろうし」


「好きで悪いのかしら。

1人の時は傍にいてくれないと、寂しいとさえ思うわ。

仕方ないでしょ?

主従関係があるんだし。

でもね。

世の中は貴方たちが思っているほど、感情だけではなんとかならないものなの。

好きなんて言っちゃいけないのよ。

矢吹の前でだけはね」

「姉さん……」

初めて聞く、姉さんの本当の気持ちだった。

俺と、指輪をしている夫婦を睨んでから、言い放つ。

「私はね、麗眞とか貴方たち夫婦みたいに、自分が選んだ相手と気楽に結婚できるワケじゃないんだから!

自由に相手を選べるだけいいと、恵まれていると思いなさい!」

戸惑う夫婦2人。

失礼します、と言って、俺の胸にいる姉さんの首筋に、麻酔薬が自動注入される警棒を当てた相沢。

姉さんを矢吹さんの隣のベッドにしっかりと運んでから、彼が補足する。

「落ち着いていただくために、眠らせました。

少し素直になっていただきませんと。

麗眞坊っちゃまには伏せておりましたが、政略結婚させられるのでございますよ。

彩さまは。

オーストリアのある財閥の御曹司と……。
特に行為を抱いているわけでもない殿方と。

ましてや、政略結婚ともなると、もはや旦那さまや奥様、本人の意思すらも関係ないのでございます」
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