太陽と雪
「なんとかしてやりたい。

納得いかないよな、親父もおふくろも。

自分の子供たちの幸せを何より望んでるし」

「ねぇねぇ、何とかしてあげられないかな」


「何言ってるんだよ、ゆづ……

僕、ピアノとギターしか弾けないよ?」

夫婦の会話を聞いて、相沢が鳩が豆鉄砲を食ったような顔をする。

「……!

貴方さまは……三ノ宮 和之(さんのみや かずゆき)さまでいらっしゃいますか?

オーストリアでもその近隣国でも有名であらせられる。

貴方さまがご一緒なのでしたら、あるいは。

政略結婚を、破談にさせられるかもしれません」

え?

この人、プロのピアニスト?

最近、ウイーンでデビューした、と言っていた。

そういえば、奥さんが妊娠したから一度、ウイーンから離れると、この間、音楽会が生中継されていた気がする。

「え……僕がそんなこと……できます?
ピアノとギターしか弾けないただのゲーム会社社員の僕が?」


「ええ。
オーストリアの御曹司は非常にミーハーでございますゆえ、貴方の大ファンなのですよ」


「じゃあ……
その人、和の言うことなら聞く可能性ある、ってことよね?」


「オーストリア……今すぐにでも行ってほしいなら行くけど」

夫婦が賛同する。


「かしこまりました。

私たちも、近日中にオーストリアに飛ぶ予定がございました。

善は急げ、でございます。

南、自家用ジェット機の手配を」


相沢さんが、的確に指示する。


「国土交通省の許可を得ておりますゆえ、この場所から飛んで国を越えてもいいのでございますよ。

さて、悠月さまはいかがなさいますか?」

娘だろうか。

まだ小さな赤ん坊を抱いた、奥さんの方に相沢が問いかける。

子連れだ。

何かあってからでは遅い。

当然、行かないだろう。

そう思った。


「私が付き添うことで判断が変わる場合もあるだろうから、付いていく」


「では、念のために優秀なチャイルドマインダーを同乗させますゆえ、ご安心を」

相沢は、まるでその答えを予期していたように微笑んだ。

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