太陽と雪
「…どうぞ、無理をなさらず。
食べられる分だけでいいですからね?」
食堂に並ぶのは、お粥をはじめとする消化のよいメニューばかりだった。
決して無理をしているわけではなく、出された料理は完食した。
具合が悪かろうが悪くなかろうが、出された料理は全て完食する主義だ。
残すのはポリシーに反する。
寝過ぎて逆に疲れたせいもあるだろう。
「無事、お食事も完食されたようですし、明日の朝には完全に回復しているかと」
額に手を当てながら、そんなことを平然と言ってくる。
体温が上がるからやめてほしい。
この、矢吹という男。
仮にも若い、恋愛したい年頃の女性を間近で見て、意識したりはしないのだろうか。
そうしないようにと、訓練を受けているのだろう。
そうはいっても、少しでも、意識していてほしい気はしている。
女性として見られていないのも、それはそれで寂しいものがある。
「失礼いたします」
矢吹にお姫さま抱っこされた。
「まだフラついておりました故、転んではいけないと思いまして。
それに何より、お嬢さま自らがおっしゃっていたではありませんか。
また、帰りもお願い、と。
主人の願いを叶えるのか、執事の仕事でございますので」
矢吹は、私に聞こえるか聞こえないかくらいの声で呟いた。
その横顔は、少しだけ赤く見えた。
なんか……可愛いかも。
「おやすみなさいませ。
……彩お嬢様。
良い夢を」
矢吹はそう言って、私の部屋を出た。
翌朝、体温を測ったらすっかり平熱に戻っていたため、シャワーだけでも浴びることにした。
誰もいないだろうとノックもせず、何の気なしにドアを開けた。
それがマズかった。
「彩お嬢様!?」
そこには、シャワーを浴びた後だったのか、着替え中の矢吹がいた。
下着こそ身に纏っていたものの、上には何も着ていなかった。
さらに、髪も濡れていて、大人の男性の色気を感じて、しばらく見とれていた。
見とれてしまっていた自分に、はたと気付いた。
私がここから出ないと、ずっとこの状況のままである。
「きゃあっ!!
ご……ごめんなさい!」
そう言って頭を下げると、照れ隠しのためにわざと大きな音を立ててドアを閉めた。
ベッドに座り込むと、先ほどの光景が脳内再生された。
私が普段の業務をしている合間に、ジムにでも通って鍛えているのだろうか。
一見すると細い。
なのに、しっかり筋肉はあった。
私を軽々と抱っこできるくらいなのだから、当然か。
生まれてこの方、テレビという箱の中で歌って踊っているパパやその同期のアイドルたち。
彼ら以外で、男の人の裸なんて見たこともなかった。
ましてや、あんな間近で。
胸板も背中も広くて。
あの胸板や背中に、たまに身体を預けることを想像してみる。
顔から火が出そうだった。
しばらくして、ドアが開いた。
その音で、あらぬ想像は強制的に終了させられる。
矢吹が気まずそうに話しかけてきた。
「矢吹ね。
どうしたの?」
「先ほどは大変失礼致しました、彩お嬢様。
あのような不埒な姿をお見せしてしまって、申し訳なく思っております」
「気にしないでいいのよ、矢吹。
よくあることよ。
貴方が少しはリラックスできたなら、それでいいわ。
私もシャワー浴びてくることにするわ。
くれぐれも、覗かないでね?」
私は矢吹に穏やかな口調でそう言うと、ゆっくり脱衣所のドアを閉めた。
食べられる分だけでいいですからね?」
食堂に並ぶのは、お粥をはじめとする消化のよいメニューばかりだった。
決して無理をしているわけではなく、出された料理は完食した。
具合が悪かろうが悪くなかろうが、出された料理は全て完食する主義だ。
残すのはポリシーに反する。
寝過ぎて逆に疲れたせいもあるだろう。
「無事、お食事も完食されたようですし、明日の朝には完全に回復しているかと」
額に手を当てながら、そんなことを平然と言ってくる。
体温が上がるからやめてほしい。
この、矢吹という男。
仮にも若い、恋愛したい年頃の女性を間近で見て、意識したりはしないのだろうか。
そうしないようにと、訓練を受けているのだろう。
そうはいっても、少しでも、意識していてほしい気はしている。
女性として見られていないのも、それはそれで寂しいものがある。
「失礼いたします」
矢吹にお姫さま抱っこされた。
「まだフラついておりました故、転んではいけないと思いまして。
それに何より、お嬢さま自らがおっしゃっていたではありませんか。
また、帰りもお願い、と。
主人の願いを叶えるのか、執事の仕事でございますので」
矢吹は、私に聞こえるか聞こえないかくらいの声で呟いた。
その横顔は、少しだけ赤く見えた。
なんか……可愛いかも。
「おやすみなさいませ。
……彩お嬢様。
良い夢を」
矢吹はそう言って、私の部屋を出た。
翌朝、体温を測ったらすっかり平熱に戻っていたため、シャワーだけでも浴びることにした。
誰もいないだろうとノックもせず、何の気なしにドアを開けた。
それがマズかった。
「彩お嬢様!?」
そこには、シャワーを浴びた後だったのか、着替え中の矢吹がいた。
下着こそ身に纏っていたものの、上には何も着ていなかった。
さらに、髪も濡れていて、大人の男性の色気を感じて、しばらく見とれていた。
見とれてしまっていた自分に、はたと気付いた。
私がここから出ないと、ずっとこの状況のままである。
「きゃあっ!!
ご……ごめんなさい!」
そう言って頭を下げると、照れ隠しのためにわざと大きな音を立ててドアを閉めた。
ベッドに座り込むと、先ほどの光景が脳内再生された。
私が普段の業務をしている合間に、ジムにでも通って鍛えているのだろうか。
一見すると細い。
なのに、しっかり筋肉はあった。
私を軽々と抱っこできるくらいなのだから、当然か。
生まれてこの方、テレビという箱の中で歌って踊っているパパやその同期のアイドルたち。
彼ら以外で、男の人の裸なんて見たこともなかった。
ましてや、あんな間近で。
胸板も背中も広くて。
あの胸板や背中に、たまに身体を預けることを想像してみる。
顔から火が出そうだった。
しばらくして、ドアが開いた。
その音で、あらぬ想像は強制的に終了させられる。
矢吹が気まずそうに話しかけてきた。
「矢吹ね。
どうしたの?」
「先ほどは大変失礼致しました、彩お嬢様。
あのような不埒な姿をお見せしてしまって、申し訳なく思っております」
「気にしないでいいのよ、矢吹。
よくあることよ。
貴方が少しはリラックスできたなら、それでいいわ。
私もシャワー浴びてくることにするわ。
くれぐれも、覗かないでね?」
私は矢吹に穏やかな口調でそう言うと、ゆっくり脱衣所のドアを閉めた。