太陽と雪
目が覚めてから朝ごはんを食べていると、急な下腹部痛に襲われ、生理の到来を告げた。
全く。
これじゃ、いろいろと動こうにも動けやしない。
空気を読んでほしいわね。
ピンポーン。
無機質なインターホンの音が鳴り響く。
出たいが、腹痛で脂汗をかいているため、出ように出られない。
「はい、ただいま。
どなたでしょう?」
「俺だ、遠藤だよ。
あと、付録が1人いるけど気にしないでくれ」
遠藤教授だわ。
教授の前で、体調の悪い素振りを見せるわけにはいかなかった。
矢吹が目で合図をしてきた。
"私が応対いたします、
お嬢様はお休みになっていてください。
せめて、顔色がよくなるまでは"
矢吹に向かって強く縦に首を振る。
扉を開けたのは、遠藤教授だ。
その後ろには、パパの知り合いだという村西さんもいる。
「大変そうだな。
さっき、例の子、葦田 奈留ちゃんに
会ってきたんだが、相当参っているようだ。
過去に自分の子を流産したことまで自分を責める材料にしてる。
ちょっとでも目を離すとヤバい患者だな」
「奈留様の旦那、葦田雅志様にはお会いになっていないので?」
「会ったよ。
気持ちを落ち着かせるカクテル飲ませたら、洗いざらい気持ちを聞かせてくれたよ。
カップルって、似た者同士でくっつくんだよな。
旦那の方も、もっとしっかりしてれば、って自分を責めてな。
夫婦揃って重症だよ、身体じゃなくて精神のほうがな。
奥さんの方は分からないが、旦那は獣医の仕事にまだ情熱があるらしい。
2人して切迫流産のワンちゃんでも見つければ、協力して処置出来るんじゃないかって思っている。
それが奥さんにとってトラウマを両方克服出来る荒療治になる、そう考えているんだ」
頭のてっぺんがハゲかかって円形脱毛症が心配な村西さんの見立てだと、そうらしい。
なお、この情報はこの部屋についているカメラで宝月家に中継されていることは遠藤さんたちは知らない。
「それに、奈留ちゃんだけじゃない、
彩ちゃんの親友の方も、ヤバい状態らしい。
実はな、これは俺も最近まで知らなかった。
城竜二家の義理の母親は今回も使われたクスリの実験台にされている。
そのことは美崎ちゃん自身も知っているみたいなんだ。
その母親に情報を横流ししてももらっているみたいだしな」
「しかし、なぜそのような回りくどいことをなさっているのでしょう?
美崎様の義理のお母様は。
正々堂々と、美崎様と協力すればよろしいですのに」
私の疑問は、矢吹が返してくれた。
さすがは私の執事だ。
「それは無理なんだよ。
美崎ちゃんの義理の母親は盗聴器やら発信器やらつけられて、常にクスリの影響を受けたフリをさせられている。
そんな中で、情報を横流ししていると知ったら、城竜二の輩は、美崎様の義理の母親を殺害しにかかるでしょう。
彼女のカウンセリングまで今引き受けると手一杯になるんで、そうならないことを祈りますが。
まぁ、私の後輩もいるので、彼らに任せてもよいのですがね」
遠藤教授はサラリと言ったが、常に命を狙われているというのは相当な恐怖とプレッシャーに苛まれているということだ。
考えただけで身の毛がよだつ。
寒気がして、布団を頭まで被った。
「今、数々の人間をクスリ漬けにして裏社会に適合した人間にしているのは城竜二の叔母です。
彼女がおそらく、裏社会を牛耳っているんだ。
裏社会の権力者、って感じだな。
FBIもビックリだぜ。
幼少期から遺伝子検査や知能検査を経て城竜二の当主に仕えさせるに相応しくないとジャッジされた人間は、養護施設に送られる。
成長したら、生きたまま殺して、臓器売買させるんだとよ。
世も末だぜ、全く」
ベッドの中で聞いていたら、吐き気がした。
それはきっと、生理の症状のせいだけではない。
矢吹の携帯が鳴った。
電話に出た矢吹は、パソコンの電源を入れ、ピアノを弾くような流れるような速さでパスワードを打ち込んだ。
立ち上がったパソコンには、相沢さんの姿が微かに見えた。
『麗眞坊ちゃまには、大筋は既にお話してあります。
頃合いを見て細かいところもお話しようと思っておりました。
しかし、今麗眞坊ちゃまは高校の頃のご学友を今週末に行われるナイトクルーズに招待するための招待状を作成中でご多忙の身。
そのことについては、私がお話しましょう。
なにせ、私もその養護施設に入れられたことがあったのですから』
静寂が辺りを包んだ。
当たり前だ。
そんな話、今までに1度も聞いたことがない。
全く。
これじゃ、いろいろと動こうにも動けやしない。
空気を読んでほしいわね。
ピンポーン。
無機質なインターホンの音が鳴り響く。
出たいが、腹痛で脂汗をかいているため、出ように出られない。
「はい、ただいま。
どなたでしょう?」
「俺だ、遠藤だよ。
あと、付録が1人いるけど気にしないでくれ」
遠藤教授だわ。
教授の前で、体調の悪い素振りを見せるわけにはいかなかった。
矢吹が目で合図をしてきた。
"私が応対いたします、
お嬢様はお休みになっていてください。
せめて、顔色がよくなるまでは"
矢吹に向かって強く縦に首を振る。
扉を開けたのは、遠藤教授だ。
その後ろには、パパの知り合いだという村西さんもいる。
「大変そうだな。
さっき、例の子、葦田 奈留ちゃんに
会ってきたんだが、相当参っているようだ。
過去に自分の子を流産したことまで自分を責める材料にしてる。
ちょっとでも目を離すとヤバい患者だな」
「奈留様の旦那、葦田雅志様にはお会いになっていないので?」
「会ったよ。
気持ちを落ち着かせるカクテル飲ませたら、洗いざらい気持ちを聞かせてくれたよ。
カップルって、似た者同士でくっつくんだよな。
旦那の方も、もっとしっかりしてれば、って自分を責めてな。
夫婦揃って重症だよ、身体じゃなくて精神のほうがな。
奥さんの方は分からないが、旦那は獣医の仕事にまだ情熱があるらしい。
2人して切迫流産のワンちゃんでも見つければ、協力して処置出来るんじゃないかって思っている。
それが奥さんにとってトラウマを両方克服出来る荒療治になる、そう考えているんだ」
頭のてっぺんがハゲかかって円形脱毛症が心配な村西さんの見立てだと、そうらしい。
なお、この情報はこの部屋についているカメラで宝月家に中継されていることは遠藤さんたちは知らない。
「それに、奈留ちゃんだけじゃない、
彩ちゃんの親友の方も、ヤバい状態らしい。
実はな、これは俺も最近まで知らなかった。
城竜二家の義理の母親は今回も使われたクスリの実験台にされている。
そのことは美崎ちゃん自身も知っているみたいなんだ。
その母親に情報を横流ししてももらっているみたいだしな」
「しかし、なぜそのような回りくどいことをなさっているのでしょう?
美崎様の義理のお母様は。
正々堂々と、美崎様と協力すればよろしいですのに」
私の疑問は、矢吹が返してくれた。
さすがは私の執事だ。
「それは無理なんだよ。
美崎ちゃんの義理の母親は盗聴器やら発信器やらつけられて、常にクスリの影響を受けたフリをさせられている。
そんな中で、情報を横流ししていると知ったら、城竜二の輩は、美崎様の義理の母親を殺害しにかかるでしょう。
彼女のカウンセリングまで今引き受けると手一杯になるんで、そうならないことを祈りますが。
まぁ、私の後輩もいるので、彼らに任せてもよいのですがね」
遠藤教授はサラリと言ったが、常に命を狙われているというのは相当な恐怖とプレッシャーに苛まれているということだ。
考えただけで身の毛がよだつ。
寒気がして、布団を頭まで被った。
「今、数々の人間をクスリ漬けにして裏社会に適合した人間にしているのは城竜二の叔母です。
彼女がおそらく、裏社会を牛耳っているんだ。
裏社会の権力者、って感じだな。
FBIもビックリだぜ。
幼少期から遺伝子検査や知能検査を経て城竜二の当主に仕えさせるに相応しくないとジャッジされた人間は、養護施設に送られる。
成長したら、生きたまま殺して、臓器売買させるんだとよ。
世も末だぜ、全く」
ベッドの中で聞いていたら、吐き気がした。
それはきっと、生理の症状のせいだけではない。
矢吹の携帯が鳴った。
電話に出た矢吹は、パソコンの電源を入れ、ピアノを弾くような流れるような速さでパスワードを打ち込んだ。
立ち上がったパソコンには、相沢さんの姿が微かに見えた。
『麗眞坊ちゃまには、大筋は既にお話してあります。
頃合いを見て細かいところもお話しようと思っておりました。
しかし、今麗眞坊ちゃまは高校の頃のご学友を今週末に行われるナイトクルーズに招待するための招待状を作成中でご多忙の身。
そのことについては、私がお話しましょう。
なにせ、私もその養護施設に入れられたことがあったのですから』
静寂が辺りを包んだ。
当たり前だ。
そんな話、今までに1度も聞いたことがない。